「ターン」
「チェンジオーバ!」
「ファアルトラブル」


ファアルを取って、動き易く。
スティールして流れをこちらに。
速攻。
それが中学時代の戦い方だった。
スコアはよく伸びる。身長は紅以外皆高くはなかったけど、機動力があった。コートを掛ける姿は蝶のようで、激しい攻撃は蜂のようだと例えられた。
歓声を浴びると体が震えた。きっと皆同じだった筈だ。私達の為に叩かれる拍手は心を揺さぶった。波立つ心音に体が体温を上げるのが分かった。
「群青」

先輩達が名前を呼ぶ。私がいただいた四番を見て、泣きそうになりながら言う。
「ありがとう、全国まで導いてくれて」
先輩達の着ている服は真っ白だ。背番号もかいていない平の証。彼女らがいるべき場所に私はたっていた。本当は私にこの番号を渡したくはなかっただろう。でも、私が奪ってしまった。彼女達の夢を。
……それでも。それでも。やっぱり、私はここに立っている。
「勝ちます」
勝ち続ける先に何があるんだろう。暗闇が広がって、何も見えない先に何を見出だすんだろう。
深い闇は恐ろしいのに。


■■■



大事を取って一週間はバスケ禁止。一週間後に様子を見てから今後を考える、お医者さんはそう言った。だけど、だからといってロードワークをやめるわけにはいかないし、筋トレを止める気にはならない。足を引き摺りながらだが、少しずついつもの道を歩く。冷たい風がほほを撫でると身震いしてしまうが、寒さに耐えきれない程ではない。首元に巻いたマフラーに唇を埋めて、前へと進む。
途中、帽子を被った青年とすれ違った。この頃よく見る人だ。彼は私の姿に驚いたのか一瞬目を丸くしたが、じっと見つめるのは失礼だろうとすぐ目線を逸らして通り過ぎた。


■■■


「…………」
「おかけになった電話番号は」
「ちょっと」
「現在使われておりません」
「ねぇ」
「ご用の方はピーという発信音の前に」
「群青」
「…………」
「ねぇ、怒るよ?」
「……怒られる道理はありません」
「ある、オレが知らないと思ってるの?」
「少なくとも、今現在は」
「知ってる」
「…………」
「怪我してるんだよね」

まだまだだね。だなんて言ってきやがった知人(私にとっては永遠の他人でいたかった人)は、すこぶる元気がいいらしい。あいもかわらないクールな声色で、氷を押し付けるような口調を響かせる。
「どうしたの?」
「……心配させる程のことではないです」
「そ」
素っ気ない言い方。それならばわざわざ電話を掛けてくんなよとも思うが、それを言うにはあまりにも彼は私に近すぎる。つーか、私が彼だったら嫌がらせで掛けるだろうし、相手もそんなんだろう。私達にあるのは同族愛護精神だろうしね。
「じゃあ、頑張りなよ」
「はあ」
「やる気のない返事」
「君も人のこと言えないぐらいには適当な返事してますからね」
「はあ、そう?」
「ほら」
なんだかんだ言って私達似すぎなんだよな。携帯を閉じて息を吐き出す。バスケを休む平日はとても暇である。


■■■


人というのは暇過ぎると苛々してくるらしい。静ちゃんが遠巻きにないと言って消えたのがショックだったが、バスケを出来ないフレストレーションを何かに押し付けることも出来ず、面白くもない授業に参加して一日を過ごす。絶対に私は二度と怪我なんてするもんかと思った。
授業ってなんだ。呪文の間違いじゃないのか。
数学とかイミフ。国語とか読めない。私の教養を舐めるなよ……。
もう、バスケ以外で生きていく道なんてなさそうじゃないか。机に突っ伏すと、控えめな笑い声が頭上からきこえてきた。誰だ貴様と目を開けて見てみると、近頃会ったことがあるような、ないような顔。誰だっけ。
「やあ、死んでるみたいだな。大丈夫?」
「……なんとか」
「怪我平気か?」
「はい」
「それならよかった」
そういって苦笑する姿には見覚えがある。本当に誰だっけ。……あー、もやもやする。スリーでも決めたら思い出せると思うんだけど、スリーを入れに行ったら駄目だろうか。というか誰でもいいから一対一やりたい。バスケしたい。ボール触りたい。バッシュで駆け回りたい。筋トレはもういい。バスケしたい、バスケしようぜ。
「大変な時にごめんな。でも、ジムの予約の変更はちゃんとしたって報告した方がいいと思ってな」
「あ」
分かった。この人、テニス部の部長さんだ。幸薄そうな顔といい、間違いない。制服だとさらに幸薄そうな顔しているなー。なんて。
…………ヤバい。
「す、すみません!」
顔を上げる。背筋を伸ばして、確りと見つめて頭を下げた。この人先輩だっていうのにさっきの無礼はないだろ、私!
「ふ、うはは」
「すみません、ほんとすみません!」
「大丈夫、気にすんなって」
肩を揺らしながら笑う部長さんに顔が青ざめる。部長の私がこんな失態を犯すだなんていい笑い物だ。部員に示しがつかない。












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