学校に行くと、私の前の席の女の子がまるで花を頭にぶっ込んだような笑顔でおはようと言ってきた。

勿論ながら、人間としての感性がぶっ壊れている私はそれを無視。
しゅるしゅると、ラッピングしてきたチョコを確認した。

そんな私を見て、あ、こいつやっぱ頭ぶっ壊れてるなと思ったり思ってなかったりする前の女の子はチョコレートを見ながらお腹をぎるるると鳴らせた。


あげないけどね。
これは、丸井君に渡す大事なチョコレートだし。

腕をくくくっと女の子の届かない場所に伸ばして、はんっ。と威張ってみせる。

彼女はそれで気分を悪くしたのか、教室から抜け出していった。





夕方の時間帯。
つまりは放課後は大いに盛り上がる。今日はバレンタインデーですからのうと、余裕こいている場合ではない。急いで丸井君のところに出向いて、幼なじみとしての威厳を保たなければ。

というのは真っ赤な嘘で、実は今日がバレンタインチョコ初日だったりします。

それはまあ、置いといて、丸井君の元に急ぐ。
丸井君は小学生の時とは比べ物にならないほどモテモテなので、今日という日になんの不満も抱いてなんていなさそうだ。

いるとしてもあれだ「多すぎてどう運んでいいかわかんねー」みたいな感じだろう。
叔母さんが言うには後ろから刺されても文句言えないんだって。
丸井君は被害者になっても賠償金を期待出来ない子らしい。南無、なむ。


私のクラスはかなり丸井君のクラスとかなり離れてDクラス、丸井君はAクラスなので二クラス差だ。

なんでこんなに立海って人が多いんだろう、半分の半分ぐらい消えちゃえば私と丸井君は一緒のクラスになれるのになあ。
人生、世知辛過ぎる。



丸井君のクラスにたどり着くと、髪が長い奴等が蔓延っていた。女の子ばっかだ。
しかも、上級生がいっぱいいるなう。
どうしよう、殺虫剤でもばら蒔けば消えてくれるかな。むしろ、ウイルスとかばら蒔いた時の方が効果はてきめんそうだ。

てきめんって、漢字どう書くんだったけ?
うむう、丸井君がてきめんって言ったことないから、知らないなあ。
まあ、いいっか。

女の子達に群がられているのは二つグループがあって、一つは机に群がられてて、もう一つが黒板の方でこっちが微妙に人数が多い。
とはいっても、二つのグループとも教室をうめつくさんばかりだから、若輩者の私が見れば、どちっともスターに見えた。


どっち、なんだろう。
回りには髪の毛が長い連中ばっかりで、肝心の彼の赤い髪の毛が見えない。
むくう、神通力が欲しいだに。

むくむくと迷っていると、背丈ノッポの白髪プラス口元ホクロのお兄さんがくくくっと笑って、ようみてみんしゃいと言った。
みてはいるよ、馬鹿かい君はと罵倒しそうになったが、何分丸井君から「お前は俺が喋ったことある奴以外と喋んな」とのご命令なので無視。

しかし隣のお兄さんは独り言(実際には私に向けて喋ってるらしきもの)を続けた。


「あっちが、幸村じゃよ」

お兄さんが指した先は机の方。数が黒板より少ないほうだった。


「おまんが探しよるとは、あっちの方じゃろう?」


と今度は黒板の方を指して、じゃあのうと廊下を通り過ぎていった。
なんなんだ、あれ。
人助け、とか、なのかな?

まあ、いいか。

私はお兄さんに教えて貰った通りに黒板の方に近付く、近付くと周りの女の子達に酷く冷たい目線で見られた。なにアンタみたいな感じ。

無視して突き進んでいくと、もう少しで光というところで、後ろから髪を引っ張られて、引き摺られるように転んだ。

そして、ずるずると後ろに後退するように引き摺られる。二三個机と椅子にぶち当たって、足に青あざが出来た。


「ちょっとあんた、何様のつもり?」


何様って、何様じゃあないですけど。何様ってだいたいなんですか

反論はえぬじーだ。
丸井君が言葉を交わした人間じゃないから、喋っちゃうと丸井君が怒って手がつけられなくなるから。


「下級生は上級生よりも後にしなさい。バカじゃないの?」


はい、よく馬鹿って言われるけれど、馬鹿って、駄目の?


「だいたい、手作りなんて、厚かましいにも程があるの」


いつの間にか私が作ったがチョコレートが消えて、上級生の女の子の手の内にすっぽりされていた。
なんて奴だ。
チョコレートの浮気性め。
君は丸井くんに渡される運命なんだよ。
女の子達の手に渡ってどうするんだよ。


「、この子聞いてる?」
「聞いてんじゃないの?」
「でも、なにも言わないじゃん」
「ビビってんじゃないの?」
「いや、でもさ、この子、焦点合ってない…んだけど。すっごく睨んでる癖に」
「ま、まじだ。ヤバくねぇ?引きずるからじゃん」
「だ、だってこの子、悲鳴もなんにもあげないんだもん」


まあ、取り合えず奪還しなくちゃ。
丸井君に渡して、ハッピーエンド。
簡単なんだから、直ぐに取り戻して、渡して
そして


「ちょ、ちょっと、なにすんのよ!」
「チョコ返せってことじゃない?返そうよ!」
「え、でも、ってキャア!気持ち悪いっ!ちょっと!止めてよ!」


女の子の腕をふるふる振ると持っていたチョコを落としてくれた。
そのチョコを取ろうと、私は指を伸ばす。屈んで、まるで土下座でもしている感じ。
でも、その時。
まるで決まっていた事のように。

黒板の近くにいた男の子が、言葉を発した。
その声はまるで女の子みたいな中性的な声で、丸井君とは、似ても似つかなかった。


「どうか、したんですか。先輩達」


バキッ。
言葉と共に上級生の女の子達が、雪崩れのように押し寄せてきて、チョコレートが粉砕されるような音がする。
それと同時に私は頭から足まであらゆるところを踏まれ、雪崩が終わった後には、ボロボロになったチョコレートが包まれた包みと、しわくちゃになった制服を着た私が残された。

私を引き摺り、後退させて女の子は黒板の軍勢に混じって、キャアーキュアー言っていた。
相手にされたからだろうか、何処と無く、嬉しそうだった。

私は、粉々になったチョコレートが入っている包みを拾いあげて、教室を出ていった。



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