瞼を開けるとそこには、名前に似て非なる女が、まるで鎮座するかのようにブロック塀に腰掛けていた。

その顔には、安売りしているかのような張り付けた笑顔。彼女に―――名前比べたら、まるで意味も理由も風で吹っ飛びそうなぐらい、軽い笑顔がのっけてある。

見たこともない、知らない女だ。しかしながら、背中を駆け回るような不快感が否めない、なんだというのだろうか。


「やあ」

そいつが口を開く。
周りには俺しかいない。
奴の服装は四天王寺中の制服とかなり似ているが、しかしながらこんな奴がいたならば俺の耳に入っているはずだろう。
コスプレか?

「こんにちは」
「うーん、こんにちは、などという形容詞がこの場合あっているかはさておき、君は柳蓮二?」
「ああ、お前は?」
「植太麗子だよ」
「いっぺん滅びろ、嘘つき」
「これは酷いね」


ふふふと文字道理不適に笑うと傷ついた様子もなく俺を見る。
目を見るとまるで不幸を熱心に求めてさ迷い歩くゴーストのような目だった。
笑い事の話ではない。
即座に抹殺されるべき人間だ。


「まあいいさ。嘘つき呼ばわりなら馴れてる。私は嘘をついたことがないけれど、甘んじて受け入れよう」
「口から出る言葉には嘘しかないのか」

こんな奴がいるから、日本が犯罪大国だと言われるのではないだろうか。
そう思うと、今すぐにこいつを署に付きだした方がいいな。犯罪を犯す前に。


「酷い酷い。偏見の域だよ、柳参謀、人を見かけと内面で量ってはいけないんだよ?」
「他に何処で量れというんだお前は」
「勿論ながら良心でさ。良心の呵責が起こったことのある人間は皆許されるべきだ、そうは思わない?」
「思えない」


というか良心の呵責をいつ日常で見れるんだ。
呵責を見せた時点で犯罪が起こっているだろう、許されるか。


「心狭い人間だなぁ。好きな人に嫌われちゃうよ」
「ほざくな、黙れ、お前になにが分かる」
「あれ?なんだいその反応。もしかして、もう嫌われているとか、かい?」
「違う。しかし黙れ」


……嫌われてはいない。
ただ、好きな相手に好きな相手がいて、敵いそうにないだけで。
にやにやしているこいつの顔に、一発ストレートをかましてやりたくなる。

――……何故だろう、こいつの顔を見ていると無性に苛立ちが募る。
相性が悪いのだろうか。


「それにしても、柳参謀。君に好きな人が居たとは驚きだ。いやはや、人間なにがあるか分からないものだねぇ。ふふふ、生きる価値がまた上がったかな―――嘘だけどね?」
「お前は、何者だ」
「四天王寺三年、輪道奏愛。だったりするかもしれないねぇ」
「さっきまで植太麗子だと宣っていた口が言うか」


どうせ、仮名にして偽名だろう。
というか中学生であるかも、怪しい。


「それはそうと」
「話を逸らすな」
「話す話しもないから逸らすんだよ。いうなれば閑話休題だ。いいだろう?」
「いいはずがない、何者かを問おているんだ」
「そんなの別にどうでもいいだろう?それとも君は名前が分からないとお話しが出来ないとでもいうのかい?」
「込み入った話しをするのならば名前がないと不便だろう」
「いいよ、別段名前を言わせるような込み入った話をするつもりはないから」


そういうとそいつはブロック塀から飛び降りて、たたらを踏む。
そしてスカートをパンパンと叩くと、何事もなかったように俺に向き直って、安っぽい笑顔をもっと安っぽくして、笑いかける。


「君が居ることから判断するにここは神奈川の立海大付属近辺場所というわけだよね」
「他にどう見える」
「いいや、他になんにも見えないよ。ここは神奈川だ。勝手しったる大阪じゃない。まったく、財前くん。あのピアス殿と離れるんじゃなかったな、場所が意味分からないし、わけがわからない。ねぇ柳参謀、駅ってどっちだい?」
「お前が登っていたブロック塀を進めばついていた」
「それはつまり私に屋根の上を飛んで行けって意味かい?私は忍じゃないから、そんな真似、真似さえも出来ないんだけどね」


まあ、確かに、名前と同じように体育は無理そうだ。
とはいっても、頭は名前以上に良さそうだが。
そう思うとあまり邪険には出来ないタイプの人間のはずなのだが、どうしたことなのだろうか。


「でも、まあ、ここから真っ直ぐ行けば駅になるのは分かったから良かったよ。ふふふ、嘘じゃなければすぐ着くかな?ありがとう、柳参謀。君はイイ人だ。私が保証してあげるよ。私みたいなのに落としめられないでくれよ?」


そういうとそいつは―――いや、そいつというかその女というか、いや、女というか、無機物というか、化け物は、

ブロック塀に片足ジャンプで飛び乗ると瓦を伝って、ぴょんぴょんとカエルのように跳ね回って、駅の方に消えていった。


「………夢か」


俺は名前にメールを打つ。
こないだ、名前は丸井に携帯を壊されているため、通じはしないが、ある意味において、業務連絡のようなつもりで。


『今日はエイプリルフールだっただろうか?』

送信した画面には、送信エラーですと書いてあった。



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