「君の声は携帯できいてもかわらないねえ」

『アーン?当然だろうが』



機械から発せられる人間離れした美しいとしか形容することが出来ない音が耳朶に触れる。


「相変わらず偉そうな澄んだ声だことで」


バレンタイン終わった後、私の携帯のアドレス共々は氷帝学園の知り合いの人達に流れてしまったらしい。
教えてもいないはずの跡部君から非通知で電話がかかってきた。今度からは非通知できた電話にブロックでもかけてやろう。そう心に誓いながら跡部君に挨拶を交わし皮肉混じりに言ってやると跡部君は喉の奥で嘲るように笑った。


『テメェは相変わらず貧弱そうな抑揚ねえ声だな』

「私はこれでも君にたいしては抑揚をつけているつもりなんだけどねぇ」

『努力が足りないんじゃねーの?』

「君に対する努力なんてするものか。で?私になんのご用かな、跡部景吾坊っちゃん」


ときいたはいいものの、答えの検討はわりかしついていた。


『あの事考えたか』

「あの時も答えたように私はいいえしか出さないよ」

『つまり考えてねえな』

「考える必要もないと、遠回しに言っているのが分からないのかな?」

『あの時も言った筈だ、テメェは考える必要があるってな』

「私はそれを否定した筈だよね。この話しはいい加減なかったことにしてくれないかな」

『無理だ』


電話越しに聞こえてきたきっぱりとした物言いに眉を潜める。

この坊っちゃんは何を考えているんだ。


『テメェがいい加減諦めな。名前』

「前から言おうと思っていたのだけどね、私の名前を気安く呼ばないでくれないかな。私の名前は価値があるんだよ、易々と出さないでくれないかな。誰がきいているともわからない場所でね」

「俺の部屋からかけている。心配はいらねぇ」

「君の部屋からかけているから安心出来るだなんて私は知らないよ……はあ、まあ名前のことはいいよ。どうせ君のことだ、なんと言ったところで意見はかえないだろう」

『分かってんじゃねえか』


フンと笑う跡部君を嘲笑する。さっきのお変えしだ。どれだけ自分がやったことがムカつくことか理解するといい。


「と言ったら君の機嫌が良くなると思ってねえ、ふふ、冗談だよ?私は君を知らない。だって君と会っていた月日は実質一週間にも満たないからね。君が必要以上にストーカーしてくるだけで、私は君のことを必要以上に知ってはいないのだから。知っている?君よりも忍足君のほうが明らかに付き合いがあるってこと」

『テメッ』

「君がバレンタイン、日吉君を向かわせたのは二つ理由がある。一つは私が一年生、つまり年下にたいしてあまり強気に出れないことを知っていたから。そしてもう一つは自分が出ていってハロウィンみたいに警戒されないように、だ。君はハロウィンのとき私からの異常なまでの警戒心と疎外心を身を持って感じている。だから今回二人だけを寄越したんだ。君はどうやら私に気があるまではいかないようだが興味があるらしいということはハロウィンの時に気がついていたからね、私は君を嵌める為に、異常な演出をしてみせた。そして今回君は私に好意的なことをする。つまり貢ぎ物で私の機嫌を推し量り、電話をかけてきたということだ。媚びへつらうのは似合わないねえ、王様?」

『知ってやがったか。この性悪女』

「知っていた?馬鹿なことを言わないで欲しいね。君が電話を掛けてくるように仕向けたのは私だよ?知っていたじゃない。実行させたんだ」

『……っ、じゃあテメェが若に言ったことは』

「全て君に伝わると思って言ったんだよ。日吉君はかなり不満を抱いていた様子だったからねえ、あの状態ならば君に直談判をするに違いないと思った、きっとそこで私と喋ったことをぽろっと言うに違いないともね。そうしたら君が嫌がらせを装ってかけてくると仕組んであげた」

『ハン、いいように若を利用したのか』


「君には言われたくないね、王様。それに、利用するのも今回で最後だ。一回ぐらいは許してくれるよ、日吉君は心が広いからね」

『今回が最後だと?どういうことだ』

「そのままの意味だよ。跡部君」


携帯を持つ手を持ち変えて私は心中を吐露した。


「私は氷帝に入学するつもりはない」

『その言葉をきくわけにはいかねぇな、テメェは氷帝学園に入学すべき女だ』

「どんな過大評価のされかたをしているのは全く分からないけれど、私に入る気はない。いいかい、これは私の感情じゃない。決定事項だ」

『そんなの知ったことか。俺様が認めてやった女をみすみす逃すわけにはいかねぇ』

「それこそ私が知ったことか。君の感情に一々振り回されるのはテニス部ぐらいだと自覚しなよ。私は君のお遊びに付き合うつもりはない」

『お遊びじゃねえ』

「じゃあ真剣勝負だとでも?君がお遊びじゃない真剣勝負なんてしたところテニスでだって見たことがない」

『……調べたのか』

「調べるも何もテニス系の雑誌じゃあ君は囃し立てられているからねえ、遊び感覚でテニスに打ち込むお坊っちゃまだなんて、どの雑誌であろうとかいてあるさ」


そう、それは公然の事実。証拠としては十分だ。


「君が私のことをゲーム感覚で捉えていると考えられても文句は言えないよねえ。まずは我が振りから直してみたら?人を勧誘する前に、ね」


そうしないと私みたいなのはつれないよねと優越感に浸りながらいう。彼を責め立てるのはこんなにも楽しいことだなんて知らなかった。綺麗なものを破壊するにも等しい悦楽が頭を支配した。



「出来るとは思えないけど、もし真剣にということが証明出来るというのならば、そうだなあ、話ぐらいは真面目にきいてあげてもいいよ?」


ああ、顔が見れたらいいのに。そうしたらあの綺麗で精緻な顔が歪む姿がみられるだろう。あの作りものめいた顔が名のある彫刻家でも決して表しきれないような歪みを見せるだろうに。



「残念だったね、跡部君。今回も君の爪の甘さが目立ったようだよ。君は漬け込まれるととことん弱いらしい」



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