俺と先輩の家の近くには四天王寺公園という馬鹿でかい南、北、西、東と部分的にわかれた市立の公園がある。先輩がいうホームレスおじいさん達は公園の西側、主に休憩所らへんに集まっている。彼らは基本的に家をおわれた、或いは追い出された、出てきたと言った家なしが多くて、段ボールで作られたいかにもな風貌の家を作り生活している。おじいさんといっても年はみなそれぞれでこないだは二十何歳ぐらいの青年が入ったのだと目の前のおじさんが説明してくれとります。
いや、なんで俺もこんな老人会みたいな集まりに参加してんやろ思うんやけどな、仕方ないねん。だって俺もよくここに家出しにくるし。
というか先輩と初めて会ったんここやしなあ。嫌になる現実に打ちのめされつつ、俺は顔見知りなおじさんの話を真剣に聞くふりして適当に相槌うつ。
「すまんなぁ、光。ありがくチョコ貰うわ」
「お、光んか。なんやモテよるなぁー、そのうち先輩を置いて先に婿にいくんやないん?」
「え?二人は付き合っとるんやないんか」
「ちゃうちゃう、付き合うわけないやろ。光やて相手選ぶわ」
「おや、酷い言い種だねえ。傷付くなあ」
「嘘つきやなぁ、相変わらず。ちゅうかお前は貰ってないん?名前」
先輩は名前を呼ばれて苦笑して答える。
「バレンタインは女の子が男の子にやるイベントだよ、おじさん」
「今は逆チョコとか流行ってるんやろ?」
「やめときやめとき、名前に聞くだけ無駄やて。名前がチョコなんか貰えるわけないやろ」
「おや、そうでもないよ」
「え?なんや?貰ったん?どこのどいつに?同じ学校か?」
「どうだろうね」
「教えやな」
「嫌だよ」
ふわりと立ち上がった先輩は俺が話していたおじさんにもういかなくちゃいけないからと断りを入れて、俺を無理矢理立たせて騒がしい後ろを一瞥もせずに、手を降った。
「まちい!名前!」
「おやすみなさい、風邪をひかないようにね」