「バレンタインチョコかなり貰っている財前君に渡すものなんかないよ。なんなの、その紙袋に入った女の子達からのチョコの箱は。私に喧嘩を売っている?」
「売ってませんけど。というか先輩は最初から作っとらんいってましたやん」
「今日調理室でチョコパウンドケーキを作ったから持っていってあげようかなとか思っていたのに、君のその紙袋の山を見てやる気がなくなったよ」
「え、パウンドケーキっすか?」
「そうパウンドケーキ」
先輩は不機嫌そうに申し訳程度にラッピングされた袋を取り出すと、いらないよねとでも言いたげな目で俺を睨んだ。
いいやないですか。俺やて今日散々氷帝がお前探しよったぞって白石部長と謙也さんにからかわれたんやからな。少しは甘いもの食べたくてまわりの奴にねだったって。
あ、と小さく声をあげて、先輩は意味ありげに唇を吊り上げると良いこと考えたと言わんばかりの視線を投げて寄越す。
いやな予感しかせいへん……。
「そのチョコ束とこのパウンドケーキ交換しない?」
「対価あってませんけど」
「ほお、じゃあ来年からのバレンタインは廃止決定だね」
「……はあ、分かりました。持っていってええですよ」
「ふふふ、わかってくれると思った」
半分以上脅しやないですか。そう思いながら、先輩のパウンドケーキを受けとる。
生暖かくていい香りがするそれを鞄の中に入れて、紙袋を持った先輩に訪ねる。
「どうするんですか、そのチョコ」
「配るんだよ。いいかい財前君。バレンタインというのは恩を売る行事なんだ」
「歪んだ行事感を押し付けんといて下さい」
「ノリが悪いなぁ、でも、配るというのにはかわらりないよ。ただ彼等に恩を売ったところでどうなるというわけではないのだけどね」
「はい?」
先輩には友達があまりいない。知人だって数えられる程だ。そんな先輩が恩を売れるような、しかも彼等と複数系に出来るような知り合いがいただろうか。
おらへんやろ……いや、ほんま。
「察しが悪いな。ホームレスおじいさん、公園に住む住民さんへのお裾分けだよ」