「む」
なんだか嫌な予感がする。財前君が去ったあとの教室で意味もなく直感のまま眉を潜めた。なんだか凄く嫌な予感なのだ。どうしたものかと自分でも戸惑ってしまう。
いなくなった財前君が私のことを呪ってる?
まさかね。
冗談を考えても、いやな感覚は消えない。
ふっと外の窓を覗き見る。こういうときは緑でも見て心を落ち着けさせよう。……うん?
「あれあれ」
校門につけられた黒い高そうな(実際に高いのだろう)車はキラリと黒光りする。どこかの学園で見たことがある乗用車。いやな感覚がさらに強くなる。
しょうがない、少し風紀委員会に話を聞きにいこう。財前君が去っていったドアをくぐって、私は足を走らせた。
●●●
「……あのおー」
「ああ、どうしたん、鳳くん」
「俺、財前くんに会いたいんですけど…」
日吉と一緒に来た筈なのに気が付けばいなくなってて、肩を落としていた俺にキラリと光る笑顔を向けて大丈夫かと声をかけてきた白石さんに宍戸さん的何かを感じたのは気のせい、だったらしい。
白石さんの後ろを歩いていくと確実に職員室に向かっていっているのが分かった。だって、俺日吉とここに来てはぐれちゃったわけだし。
俺、確かに財前くんに会いたいって言ったはずだよなぁ……。
きこえてなかったのかな……。
そう思いながら、白石さんが俺に財前のところやなと聞き返していたのが頭の中を回る。
うーん、流石に俺が悪いって言うのは無理があるよなぁ……。
「鳳くんは心配症やなあ、職員室に向かってんのはちゃんと理由あるんやで。うちの学園、放送室職員室の隣やねん。財前に会いたいんやったら財前から来て貰ったほうがよくない?」
「ああ!流石白石さんですね!」
まあ、本当は財前くん自体に用はないんだけど、いいか。
俺たちが用があるのは彼女だけど、財前くんが一番近いから、彼女の場所を聞くんだし。
●● ●
「おかしいんだ、舞得さん。氷帝が来ている」
「あら、あなたにしては情報回りが早いわね。そうよ、氷帝の日吉さんと鳳さんが来ているわ」
「なんでそんな反応するのかなあ……。君にも関係がある話しだろうに」
「一番関係あるのはあなただもの、反応が鈍くても仕方がないと思わない?」
「………ごもっともだねえ。いやなぐらいに」
頭を掻くと珍しくにやりと笑う舞得さん。嫌みな人だなあ。
「あなたがそんなに動揺しているってところを見るとこないだの氷帝への交流は結構いい感じに作用したってことね」
「こないだって、もう半年ぐらい前の話だよ。それにこれは動揺しているわけじゃない。行動しているだけだよ、日吉君と鳳君から逃げる為にね」
「同じようなことじゃない。あなたは珍しく動揺して、行動しているのよ。というか寧ろ動揺しているから行動してるっていうのが合ってると思うのだけど?なんにしろ珍しいわね」
「…………ふう。私にはやっぱり友達なんか出来そうにない。舞得さん、取り敢えず言い訳をしておくけれどね、私は君のかわりにあっちの学園に交流しに行ったんだ。つまり私が君の名前を使って悪事を働いていないとか言っていないよ」
「あなたそれは言い訳じゃなくて脅しじゃない!」
「脅し?なんだいそれ。私はただ言い訳をしているだけだよ。ああ酷いなぁ、舞得さんには私の言葉一つ一つが脅しにきこえているの?力任せに舞得さんに楯突いているように聞こえる?この悲しみは何に例えて話すべきなのかな。この胸の痛みはどう説明して返すべきなのかな。とても迷ってしまうよ、言葉が胸の中に溢れてこぼれ落ちて上手く言葉を表現出来ないからねえ」
「口がよくそんなに滑らかに動くわね……」