「……え。チョコ、ほしかったの」
そういうわけじゃない。もう俺やて子供やないんやし、貰うもんは貰っている。白石部長と比べるとまあ、うんって感じやけど、謙也さんよりはもらってる。でもやっぱりこの人から貰うっていうのはまた別格だと思って、そう思ったら、顔がだんだんショボくれていくのが分かる。
去年まで用意してくれとったやないですか……。
「ごめん、用意していないよ。いらないと思って」
「………」
「ぶすくれないでよ。弱ったなぁ」
そういいながらも薄く張り付けた何時もの笑みを浮かべている先輩に、ほんの少しイラッとして、言葉にトゲをつけて言い返す。
「本命チョコでも作ってて、俺の分忘れてたんじゃないですか」
「ふふふ、私が本命いそうに見える?」
「見ようによっては」
「いないよ、大体バレンタインは好きじゃない」
血のバレンタインとか言われる日があったからね、本当は喪に服す日なんだよ、今日は。
そう言って俺の手を握り、ね。と促してくる先輩。絶対にこの人、めんどくさくて作らへんかったな。
なんだか先輩に重要視されてなかったみたいで、俺だけが楽しみにしとったみたいで腹が立つ。
もう知らん。先輩のバーカ
「先輩に対してバカは失礼だよ、財前君」
そういった先輩の顔はいかにも楽しそうで、俺はブスッと顔を歪ませて先輩のクラスから出ていった。
●●●
「………」
な、なんやこいつ。キノコみたいな頭のこいつをみて、俺は唇をひき吊らせた。ここ大阪やで。東京ちゃうんやけど。そう口を開こうとしてみたら目の前の日吉若が先に口を開いた。凄く低い唸るような声。地を這う蛇みたいや。
「……財前何処にいますか」
「ざ、財前?なんかようなんか?」
「用がなくちゃこんなところ来ません」
「………」
ピクリピクリと唇がまたつり上がる。なんやの。こんなところってなに。え、なんで不機嫌なん、意味わからん。
「俺、時間がないので分からないんだったらいいです」
「ちょ、ちょいまち!入るんやったら職員室に申請してから……」
「そんなのもうしています。こう言ってはなんですが、バカじゃないんですか」
ば、バカ。……あはははは。なんやこいつ、めちゃくちゃ財前に似とるんやけど。跡部も大変やなあ……。