「もともとエイプリルフールは朝しか嘘をついちゃいけないらしいよ、財前君」
そしてお昼にかけて嘘をバラす。そうなるんだってさ。
先輩はそういいながら白玉を食べる。
口が饒舌になったら機嫌がよくなったサイン。
ガッツポーズを決めたい。
結局、あのあとあの女は背が高い立海参謀の柳先輩と帰っていった。
あれに口を挟むほど俺は野暮やあらへんから、俺は先輩が帰ってくるまでまっとった、先輩は不機嫌ながらも俺に喋りかけてきて、喧嘩にはならずにすんだみたいやった。
「午前やったら、まだギリギリありますね」
「そうだねぇ、なにか嘘つきあう?」
「冗談やろ、先輩に勝る嘘なんてつけないっすわ」
「そうかなあ?そうとは思えないけれど……。ねぇ、財前君こっちにきて」
「はい?」
先輩は白玉を椅子に置いて、俺の腕を掴んで路地裏に連れ込む。
なんやゲームみたいな展開に俺はついていけない。
なんやの?
そう思っていたら、先輩の腕が俺の首に絡まって、まるでキスをするときみたいに、顔が近寄る。
!……!…!?
「ねぇ、財前君」
「な、なんですか?」
色っぽい吐息が耳の近くで囁かれて、体を縮こまさせる。
「顔が赤いよ。どうしちゃったの?」
くすくすと分かったように先輩は俺の耳元で笑う。
洒落にならへん。
「ねぇ、財前君。」
「……っ」
「ハッピーエイプリルフール」
「…………はっ?」
「いや、言っておかないとなって思ってねえ」
「いやいや、はっ?」
「君、なに、期待したの?ここで私が好きですとでも言うと思った?」
「それはありませんけどっ、路地裏に連れ込み必要あったんすか!」
「なかったねぇ」
「あんたは!」
暇な人やな!
なんやねん、その無駄な演出の仕方!
「もう戻りますよ、白玉食べたいっすわ」
「あ、うん。私も食べたいし戻るよ、ねえ財前君、ぜんざいも食べたいなあ」
「知らんわ!先輩が買ってくるとええやろ!」
「それじゃあ君から貰ったことにはならないだろう?それじゃあ駄目なんだってば」
先輩は意味分からない事をいって、俺の後ろをついてくる。
元の場所に戻ると俺の分の白玉だけが食われていた。
今日は厄日や……。
心からそう思った。