「……う、そ」


息を吐くのが辛い。
内臓に穴が開きそうだ。それでも走ってきた私を待っていたのは井戸の近くに座っていた仁王君―――なんかではなくて、真っ赤な頭が目印の笑顔がチャーミングな丸井君だった。柳生君、本当に覚えておけよ。心の中で叫びながら私は丸井君の二三歩前で失速して息を整えた。


「丸井、君」


なんで掃除してないの、なんて愚問だ。彼が私との会瀬と掃除を天秤にかけたらどちらに傾くかなんて現状が現している。丸井君にまで入れ知恵したのかあの紳士さんは。コンビ揃って騙すことがお上手だ。唇を噛む。迂闊だった。あの柳生君が紳士だったのは遠い昔のことじゃないか。彼は私を騙すことなんて容易に出来てしまうのだから警戒しておくべきだった。
私としては柳君を警戒しておかないといけなかったから、どっちかというと仁王君寄りに見える柳生君をそれほど重要視していなかった
彼、仁王君を何処にやったんだろう?
駄目だ。誘導先がありすぎて特定出来ない。大体柳生君は学校のどこかとは言わなかった。もしかしたら学校じゃないどこかにそれこそ植太さんと一緒にいたあの喫茶店にでもどこにでも誘導は出来る。
今からそんな不確定過ぎる要素を持った宝探しをするわけにはいかない。それに、丸井君だってこんなところにいつまでも居させちゃいけないんだから。


頭がごっちゃになりそうなのをおさえてまず丸井君をどうにかしようと考えた。たかったんだが、丸井君の様子がどうにもおかしい。声をかけたというのに振り向きもしないなんて珍しいなぁ……?


「丸井君?」


もう一度名前を呼ぶ。丸井君は振り返らない。附せられ見える背中。マフラーが巻かれた首。赤色の髪。


「まるいく………っん?」

もう一度と再度名前を呼ぼうと近付きながら口を開いたら、赤色髪の毛が見事に翻って首元に彼の腕がかかる。ジャージから見える二の腕の筋肉のつきように少しドキリとしつつ、目の前に見える赤い彼の髪を撫でた。


ふぅと耳にかかる吐息。丸井君のものだと思うとゾクリと背中がふるえる。


「丸井君?」
「名前」


熱っぽい声。耳にかかるその吐息に少しだけ疑問を覚えつつ、いつものようにかえす。


「どうしたの?丸井君」

彼の顎が肩にのって、今日は甘えたな日なのかなと苦笑する。可愛いなぁ、まったくもう。むにゅりと彼の餅みたいに柔らかい頬を摘まむ。仁王君のことは諦めて明日また考えよう。どうせ今からじゃ間に合わない。マシュマロみたいにぷにぷにした丸井君の頬っぺたをもつと、背中に冷たい何かが当たっている、そんな感触がした。





  
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