「あれ、なんで君がこんなところにいるの?」


仁王君と約束した場所、図書室は今の立海では殆ど使われていない場所だが、それでもストーブがついている。私はそのストーブの近くを独占するように座り込み、本を読んでいた。切原君と話したのは昨日のことだ。仁王君との約束は今日の放課後とはいったものの仁王君には部活があるし、もう少しかかるだろうと思い長めの本にしてみたが、この本がなかなかに面白い。ページを捲るのが楽しくて、こんなに面白い本があるのに居るのはこの空間には私だけというのは贅沢過ぎるだろうと優越感を抱いたところ、そんなとき彼は近づいてきた。

「君は基本保健室に隠居しているじゃないか、こんな辺鄙なところに何用かな?」
「いちいち詮索しないで頂けませんか。私はただ本を借りにきただけです」
「借りに?それなら残念だったねぇ、今日は先生がいないから貸し出しはNGだよ。柳生君」

彼は私の言葉をきいていないかのようにスルーして、文学コーナーを過ぎ、専門書のコーナーに入っていった。
やれやれ、柳生君はいつでも私に優しくはないものだよねぇ。
肩を落として本に視線を戻すと、すぐ二三冊を持って柳生君が帰ってくる。
相変わらず即断即決なことだ。
迷いがなさすぎるにも程があるだろう。
ページを手でいじくりながら捲るとストーブの心地よい熱気に包まれて本が本来の暖かさを取り戻す。


「あなた、また何かやるようですね」

ストーブに近い椅子に腰掛けて、柳生君はいった。疑い半分とでも言いたげな口調は鼻につく。私は本から視線を上げず、無意味と知りながらも抵抗してみる。

「借りるんじゃないの?」
「先生が居ず、借りれないのでしょう?ならば読んでいくしかありません」
「というか今日部活は?」
「気が進まないので休みました」
「サボり?」
「ええ」

なんにもないように頷く柳生君。風紀委員の彼が嘘のようだ。頬をひきつらせ、そうと頷いてみせると柳生君はページを捲った。

「潔くなったというかさ、なんだかかわったよねぇ、柳生君」
「そうでしょうか?私自身はなんとも」
「私としてはもっとこう固くなっているイメージだったからさぁ。変わりすぎてなんとも言えないよ」
「でも、確かに自分でも迷うことが少なくなったとは思いますね」


晴れやかな顔をしてこちらをみているだろう柳生君。
本当に嫌味がお上手なことだ。
いや嫌みというか、報告というのか、いや嫌みだろうな彼の場合

本から視線を上げて、柳生君を見る。
つり上がった目
いかにも好戦的な青年
唇は赤く、本に寄せられた眼は獲物を捕まえようと捉え続ける動物のそれと同じ。
ボタンが一つだけ外されたシャツは上からセーターをきていてそんなに寒くはなさそうだ。

柳生君

風紀委員だった彼は眼鏡をしていたが、今の彼にはそれがない。コンタクトにかえたらしいとはきいてはいたけど、ここまで美男子で尚且つ仁王君に似ているとは。

兄弟だと疑ったほうがまだ納得いける作りの同じ顔。髪型だけが違う、姿。

柳君とはまた違った清楚さがある彼。


「本当に眼鏡外したんだ」
「試合をするのに邪魔でしたから」
「コンタクトにしてみた気分はどう?」
「よくも悪くもないといったところです」


流石にガードが固い。
昨日の切原君とは比べ物にならないぐらい情報規制が徹底している。
流石柳生君、とほめてあげたいところだけど、残念ながら私は柳生君に対するキーを二、三、持たせて貰っている。
まあそんな話しはあとでいいか


「柳生君。例えばなんだけど、君ならば好きな女の子に一生を捧げられる?」
「無理でしょうね」
「即断即決にも程があるよ、少しは考えてみたら?」
「考えたところで同じことですよ。私には無理です」
「じゃあ柳君だったら?君が柳君だと仮定して、彼は好きな女の子のためだったら一生を捧げると思う?」
「思います。私ではなく柳君でしたらありえます」
「そうだねぇ」
「なにかありましたか」

「なーんにも、気になっただけだよ」


はぐらかしてはにかんでやると、それはよかったですね、と返される。うーん、大人な反応だ

ムキになられてもそれはそれで困るのだけど


「そういえば昨日、切原君に会ったよ」
「おや、それは大変でしたね。お疲れ様です」
「自分の後輩に申し訳ないと思わない?」
「思っていたらそもそも私は口にはしません」


ペラリと本を捲る音がきこえる
同時に何個でも平行して作業が出来るんだよねぇ、柳生君って
ほんと、出来る人、だ


「でも、そうですね、あなたが切原君に会ったという事実を私にいうのは意外です」
「あれ、なんで?」
「なにか調べているのではないのですか?私はテニス部でも柳君に近い存在であると思いますが?」
「柳君のこと調べているって分かられている時点でもう言ったも言わないも関係ないでしょう?どうせ切原君に会ったことも知っているんだろうから」
「それはそうですが」
「それだったら君に全てを話して談笑したほうがまだ建設的だよ」


ひっそりと怪訝そうな顔をされる。いぶかしむという単語がぴったりと当てはまりそうだ
反応してやる義理はないから、そのまま沈黙する。ペラリとページの捲る音がまた聞こえた


「まあいいです。……切原君はまた難しい子だったでしょう」
「君が紹介した仁王君ほどじゃないよ。個人的にはなかなかにいい子だとおもうけど」
「おや。壊れた子がお好みではなかったでしたか?」
「仁王君のは壊れているというより病んでいるっていう言葉のほうがぴっしり当てはまると思うけど?」
「私からみたら仁王君も十分に壊れていますよ」

「私からみたら君も十二分に壊れていると思うけどねぇ」


軽口を叩きながら、表面をなぞるような会話をする。今一踏み込みどころが分かりずらい人だ


「勝たなくちゃ、か」
「切原君が言ったんですか」
「彼何かあったの?トラウマみたいな感じだったけど」
「負けたんですよ」
「いや、それは知ってるよ、全国大会の話でしょう」
「違います。幸村君が飛び降り自殺をして、退院祝いで勝負したときのことですよ」


ああ、幸村君の。
顔が歪に歪むのが分かる。やっぱり駄目だ、なかなか耐えられない。幸村君の話が出るのは


「切原君、ゆ、幸村君に勝負を挑んでいたんだ」
「はい。しかもシングルスで、立海最強を争って」


男の子って最強って肩書き好きだよなぁ、どうしてなんだろう


「で、結果負けたと」
「惜敗でしたが、まあ負けました。幸村君のほうがブランクがありましたが、負けました」


切原君に容赦ない言い方だ。人にはいろいろな可愛がり方があるんだと弁明しておこう


「え、でそれがトラウマ?なんだかトラウマになるところあったかと聞きたいぐらいなにもなかったような気がするんだけど」
「そうですね」
「それがトラウマ?」
「ええ、推測するに、ですが」
「よくそんなの推測出来たね」




  
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