ドアの前。
二年生のある教室の前といったほうがいいだろう。
その前に私は佇んでいた、手には教科書とノートと筆箱。ちょっと重たい武装だ。
息を吸って、息を白く吐き出したあと、空気を喉につめる。





ドアをあけると、四十と並んでいる机の一角にノートを広げて頭を抱え込んでいる男の子がいた。
髪型が特徴的な彼は私が入ってきたのにも気が付いていない。顔をあげることなく、そのまま悩んだポーズ。

無用心だなあと思いながら、一番黒板に近い場所に座る。椅子をひくと鉄が引き摺られる音が鳴って、彼がやっと私の姿を捉えた。


特徴的な髪型の天然パーマにくりっとした大粒の瞳。利発そうな顔立ちは人懐かしいようでどこか反発的だ。立海のテニス部ジャージを身に纏っている姿はどこか幼い。


ねめつけられ、大粒の瞳なのに細められるとそれなりに威圧感があり肩を竦める。


「……チッ」


小さく出された舌打ち。
凄く反抗期らしい反応だ。


ノートと教科書を広げて筆箱からシャーペンを出す。二三回ノックしたあとに出てきたシンを確認して、教科書の黙読に勤しむ。


「……先輩ッスよね」
「うん、そうだよ」


教科書から目を離さずに答えると彼はとてもめんどくさそうに声を上げた。

「なんで二年生の教室に来てるんッスか。あんた達は基本二年生ゾーンには出入り禁止でしょ?」


用がなかったら他の学級にはいかない。
乱争や抗争が絶えなかったため先生が作った規則。とはいえ用がなかったらというのは個人の価値観の問題の為、それほど束縛性は存在しない、まあ言いくるめるにはもってこいの規則じゃあるんだけど。


「用事があったからね」
「オレにわざわざ会う用事ッスか」
「自意識過剰だねぇ、誰がわざわざ君に会うためにくるんだよ。別の用件に決まっているでしょう?」
「ヘっ?」


驚く声がきこえて、とても残念な気持ちになった。柳君の下の子はこんな成長を遂げているわけか……。仁王君と丸井君がいるから分からないわけではないけれども……。


「君、バスケ部の樂岾(たのやま)さんみたいな人だねぇ……。彼も彼で自意識過剰で、女の子が話し掛けてくるたんびにウインクするという曲者だから」


しかも顔立ちが普通よりちょっと上だから何気に人気があるっていうところが似ている。

ちなみに樂岾さんは昔は謙虚で柳君みたいなタイプだったと聞き及んでいる。そのままのタイプだったら私も惚れていただろうに。


「なっ……!オレはあんな厳選しない女たらしじゃないッス!」
「厳選する女たらしは女たらしの中でも最低の部類に入ると思うよ」
「最低と言われてもあんなやつと一緒されるのは嫌ッスよ!」
「……いや、そんなに樂岾さんは悪い人じゃないよ?自意識過剰だけど窓ガラスとか割らないし」
「…あれ、そうなんッスか?」


この子、熱が冷めやすいというよりも頭に熱が回りやすくてどうでもよくなるのが早いんだ。きっとどうでもいいことでいきなりキレ初めて窓ガラスとか割っちゃうタイプ。


「じゃあ先輩はなんでこんなところに来たんですか?」
「接続の仕方がいい加減に間違ってる……。ああ、いやね、先生に言われたんだよ。三年生の参加がお前一人しかいないから、二年生のところにいって参加しろ。先生も暇じゃないからな、って」
「私立だからって先生達の職務怠慢を捨て置いていていいんッスかね?」
「ちなみに君、職務怠慢ってどういう意味だか知ってる?」
「失礼な、オレだって知ってるッスよ。あれでしょ、仕事を働き過ぎているっていう意味でしょ?」
「君は英語を広げてないで母国語を勉強したほうがいいと私は思うよ。というか何故に国語も出来ないのに英語をしようとしているんだよ、君は」
「柳さんに英語は国語よりも世界的には簡単だ。と言われたからッス」


それは世界的にはだよ。
日本語を習っている日本人には覚えるまでかなり難しいというのに。


「柳君が言いたかったのはきっとだからお前はできるはずだというのなんだろうな……。にしても君、ほんとうに学生さんかい?なんでそんなにバカなの?」
「むきぃー!オレはバカじゃありません!バカとか言ったほうがバカッスよ!」
「じゃあ問題、一足す一は」
「田んぼの田!」


心身共にバカの極みのような人だなぁこの子。

ほんとうにテニス部なんだろうか。というかほんとうに柳君と同じ部活なんだろうか。

振りかえって彼をみる。
大粒の瞳がキラリと光って、ほのかにシャンプーの香りが漂った。


「君、名前は?柳君と知り合いなのは分かったから柳君に次会ったら何か言っておかないと」
「そう言われて自分の名前をしょーじきにいうやつがいると思います?」
「あー、君、さり原?さり原君っていうんだねぇ」
「え、ちょっ、教科書捲るとか反則ッス!」


教科書の表紙にミミズがはっているような文字で書かれたそれを見て、これならば国語無理でしょうがないと分かった。こんな乱雑に書かれた文字久しぶりに見た。丸井君のほうがまだ綺麗だ


「というかオレはきりはら、切原です!どうやったらさりはらに見えるんッスか!」
「自分の字をよく観察すれば分かるよ。というか君さ、なんで切原の切を漢字で書いてないの?」
「分かんなかったんッスよ」


……育成教育がなってない立海テニス部。
なんでこんな子がテニス部の二年生なんだろう

まあじゃなければこんなところにこないか。


改めて、ここは二年生の補習室。現在では三年生の補習室も兼ねてはいる二年生の教室。参加者は私と切原君。つまり二人だけ、ドキドキしたいシチュエーションだけれども相手がこんなにもバカな二年生だからドキドキするよりもハラハラしてしまっている。








  
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