綺麗事は嘘臭い
綺麗な人だって鷽くさい
結局嘘八百










パラドックス

















教室というのは水の中にある箱と同じだと柳君が言っていたような気がする、いや以前の話しだから今はどうだとは言えないのだけれども。
でも、それはあながち間違いないようでそれでいて間違っていると私は思った。理由とかはいろいろあるけれど、一番はやっぱり水の中の箱状態なのは教室だけじゃないということ。つまり、教室じゃなくて学校全体それ自体が水の中の箱になっているということ

空気がない人間の住み心地が皆無な場所。
学校とはつまりそういうものなんだと私は思う。
人がいっぺんに集まって集団をとるだなんて何事なんだろう、学校というシステムを作り上げた人はきっと頭が良くなかったんだろう。
集団を思春期の子供にとらせるだなんて、死んでくれというようなものだ。

元に一人、今日もどこかの学校から飛び降りた人がいたらしい。
先生が声をびくつかせながら放課後、校内放送でそういうものだから面を食らってしまった。

まったく先生達の動揺は生徒にだって影響するのに、そこらへんをちゃんと理解していない大人達だよねぇ。



リノリウムの床を蹴る。シンと静まりかえった廊下を歩くとやはり音がする。まえもこんな感傷に浸りながら廊下を進んだことがあったなと思いながら進む。
片手にはノートと教科書と筆箱。

そういえばあの時は保健室に向かうところだったけか。


思い出しても意味のないことを頭で考えながら、今から行われる悪夢のような時間に嘆息をもらす。
億劫なことだよねぇ。





立海の二年生の教室は三階にある。
ちなみに三年の教室は一階にあって、それは一年生を挟むことでゴタゴタがあった二年生と三年生を引き剥がそうという狙いがあったと聞いている。

ちょっと昔に戻るだけで二年生の子が三年生の教室の窓を一枚一枚荒々しくバットで殴っていったことが思い出せるこちらとしてはわからないでもないのだけれども、でもそれにしては間に挟まれている一年生がかわいそうだなぁと思う。

無責任にも間をとらされることとなった一年生は全体体育のときだって二年生と三年生に挟まれていた。並々ならぬ緊張感があっただろうことは想像しなくても分かる。


そんな一年生の階を踏みしめてのぼると、一年生の教室側から女の子が数人ぞろぞろと出てきた。皆おとなしそうな顔をした軍団だ。

会釈をすると、人の良い顔をして返される。
とてもいいこ達、まあ、手に持っているウサギを無視するならばのお話しだけれども。


「なにをやっているの?」


彼女達の一人に声をかけると、ウサギが救いを求めるようにこちらをみた。充血したように見える目、可愛いとはいいづらかった。
声をかけた彼女は品のよさそうな眼鏡をかけていて、利口そうに見える。
きりっとした眉毛が印象的で、威張るとかっこいいだろうななんて思った。

「ゑÅヮΣΡΕΩαУЖИХюсёt&%tёюÅХ↓ですよ、先輩↑」
「そう、楽しい?」
「∞♀♂#£◎●$★☆§℃¥$≦≦──↓はい!ぐらい楽しいですっ!↑」
「それはよかったよ。ねぇ、君は?君はたのしいの?」


小柄の爬虫類系の目をした彼女に問いかける。顔には斑点のみたいにニキビが出来ていて、体臭が凄く臭う。でも彼女はとても楽しそうに髪を揺らしてシラミを落としながら笑う。


「すで、いは、んろちも、てっまき、ゃじる、かすでいな」
「そっか、それならよかった。そういえばそれはなにに使うんだい?」


ウサギを指差してみると二人の目線が私が声をかけなかった女の子に注がれる。その女の子は嬉々としてウサギを目の近くに引き寄せると、私を向いて、黄色い歯をみせて歯茎が見えるほど唇を曲げる。


「私の私のウサギなのですよでせですこのウサギはウサギはウサギでアリスなので私はアリスなのですあははかわいいですよ私私の私のウサギウサギですですからからわかりますわかりますよねえへへうふふきひひいひひくへへふはははにゃははははきひふき」


ちなみにそのウサギは飼育委員が飼っている食用(飼育委員が食べる気満々、因みに本来は食用でもない)ものなんだけどねぇ。

そんなことを思いながらウサギを持っている彼女の頭を撫でると、猫みたいに目を細められる。

ほんとうにいい加減に壊れきっちゃてるなあ。


「これからどこかに皆で行くんだね、じゃあまた明日。ちゃんと学校にくるんだよ?」
「ゑヮΣюΣюΡΡΕ℃℃℃℃℃§☆★★★☆●●∀⊇⊆⊥∇∠⌒∂≡♯‰↑ですよ!っ楽しいですもんっ↓」
「そっか、じゃあねぇ」


手を振って彼女らを見送る。彼女らをみたって私は罪悪感を抱きはしないけれども、けれども愛着は沸きそうになるなぁ。
誰か、知らない人間を撫でた手を見る。
彼女らはどこかでなにかを失ってなにかを損失して壊れてしまった。

二階から三階へと続く階段をのぼる。
廊下はまた静寂に包まれた。部活動が始まる時間までもう少しだけあるけれどそれにしてもこの静けさは異常だよねぇ。


誰かの声がしないかと耳をすませてみたところで何も聞こえない。聞こえるのは床を叩く自分の足音だけ。
反響して響靴の音を聞きながら、何故だか丸井君にあいたくなった。





  
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