「そうだねぇ、例えば彼女がハーレム女王と呼ばれた由縁らへんから聴きたいかな?」
「そこらへんはファンクラブの勝手な妄想とかが混ざっとることじゃぞ」
「火のないところに煙りは立たないというでしょ、発端はそっちが作ったことに代わりはないはずだよ」


注意をする、流石にここまできて紛らわさせられたら嫌、仁王君は仕方無さげに首を振ると喋り始めた。


「はじまりは、小さなある約束事じゃった、そう言えば少しは興味をひくフレーズかのう」
「興味をひくも何も、私は現在進行形で興味があるんだけどね?」

「その約束事はある女との契約じゃった」
「植太麗子との契約?」
「……その女との契約はこうじゃった。海は大変荒れています、港が壊れる前に神様にお祈りして、海を沈めて貰いましょう。それを聞いた漁師が答える、お祈りとはなんぞ、と」


……?
仁王君は何を言っているんだろう。まるで関係ない話だ。
私は海のことについて聞いたことはないはずだけど。
何かの暗号かなにかなのだろうか


「巫女をたてましょう、女は言った。薄汚い巫女ならば誰も傷付かないでしょう、漁師はそれに頷いた。巫女は海に投げ出される、しかし海は荒れ続けた。神が怒り狂ったかのように、港を壊し、村を飲み込んだ」

飲み込んだ。
まるで巫女が恨みを晴らすかのように
村をペロリと飲み込んだ。

「漁師は女を指差し怒鳴り散らした。お前のせいで村がなくなってしまったではないか!女は漁師によって追放される」


理不尽な叱責を受けた女は漁師を恨んだのだろうか

いや、女が植太麗子ならば、恨んだわけがない。
逆に巫女を恨むだろう


「これでお話はおしまいおしまい、めでたし、めでたし」
「抽象的過ぎてよく分からないんだけど、仁王君」
「それが狙いじゃ」
「……なんだかもやもやするなあ」


煙をまくように紡がれた物語に不満を抱きながら、思案する。

漁師をテニス部のレギュラー陣に変換して、女を植太麗子に、巫女は……架空の女?
巫女はまだ仮定Xとして、まず海が荒れるは学校が荒れる。 港はテニス部のこと、変換して
……植太麗子との契約はこうじゃった。学校が荒れています、テニス部が壊れる前に神様にお祈りして、学校を沈めて貰いましょう。それを聞いたテニス部の部員は答える、お祈りとはなんだ、と

ここで問題は神様という単語、或いはただの表現方法かもしれないが、それ以外だった場合、読み間違えることになる

仮定Xをたてましょう、女は言った。薄汚い仮定Xならば誰も傷付かないでしょう、部員はそれに頷いた。仮定Xは学校に投げ出される、しかし学校は荒れ続けた。神が怒り狂ったかのように、テニス部を壊し、村を飲み込んだ


海の解釈は学校、なのだろうか。
学校に放り投げ、だなんて文法的におかしいけどなあ。
そして、村はなんなのだろう。なにに変換される?
よく、分からない。


部員は植太麗子を指差し怒鳴り散らした。お前のせいで村がなくなってしまったではないか!植太麗子は部員によって追放される


ここでもやっぱり、村が謎だ。村がなくなってしまった、だなんて文法的に何もいれられない。

仁王君、難しい問題を提示してくれることだ
憎たらしいぐらい、頭がごちゃごちゃなってしまった。
こんなんならば訊かなければよかった。


「最初からはぐらかすつもりだったね、君」
「なんのことやら」
「きみねぇ、……ああ、もういいや。植太麗子のことはもう調べる必要ないしね。今から調べることは特に―――――――ある」

焦らすように言うと仁王くんが呆れながら言う


「あるんか」
「あるある、全然ある。というか植太麗子さんについて、それ関連でこれを訊きたかったんだからねぇ。植太麗子なんて前座だよ、さて仁王君。問題です、柳君が今一番大切にしているものはなんーだ」
「?」
「それはね、『秘密』だよ。桜の木の下の秘密、なんて。ふふ、あながち間違ってはいないんだけどねぇ」
「参謀が秘密のう、まあありがちじゃろ、奴に秘密がないほうがおかしか」
「そう!彼に秘密がないほうがおかしい。けれどもどうだろうそれが人の命に関わっていたことだとしたら?この学校の存亡に関わることだとしたら?彼が大好きなテニス部の壊滅の危機だとしたら?それよりも、上になる秘密なんてあるのかなぁ。それよりも下にならない秘密がなんてあるのかなぁ」
「……なにが言いたいんじゃ?」
「言いたいことなら言っているでしょう?鈍いなぁ、仁王君。つまりさあ、柳君には重大な秘密があるんだよ、大切にしまっておきたい秘密がね。それがどんなことだかはわからないけど、興味があるんだ。とても楽しそうじゃない?彼の秘密、きっと桜の木の下の秘密のように誰にも知られてはいけない、知らせてもいけない、好奇心を煽るようなものなんだろうかなぁ。だからさ」


一緒に楽しもうね?


ドタバタ。
廊下を動かすような人数が行進するように進んできた。
仁王君に向き直り、彼の首に腕を巻き付ける。耳に口を寄せて、みせる。

「中にいる女の子を落としてみせてよ。彼女の名前は三槽って言うんだ」


仁王君が目を見開く。
彼も彼女のことは知っているらしい

「私は疑われないようにすぐ出ていくから、楽しんでね?」


耳から、正面に移して顔を近付ける。後ろから見たら、口付けでも交わしているように見えるだろうか。なんて思う



「に、ににに仁王クン!!?」
「ダレよ、あのおんな!」
「あーん、雅治クーン!!」
「きゃああああああ!!」

爆音にも似た音が後ろから迫ってくる。
元気がいいな、嬉しいことにね

そう思いながら、仁王君にそっと囁く

「モテモテだねぇ、仁王君たら。恐ろしいものだよ」

じゃあ、中に入ろうか。

そういうと仁王君はらしくもなく頬を薄く赤らめると、後ろでドアを引くと、力強く保健室の中に入れてくれた。

ドアをしめると外からシャットアウトされた音が少しだけ、残響になって届いた。

仁王君からのいて、私はベットに横たわる眠り姫を起こさないように覗き見る。
上下に動く胸元は彼女が生きているという証だ



「三槽さん、ねぇ」


柳君が君でどれだけたぶらかせるかなんて未知数だけど、試す価値ならいくらでもあるか


ゴムで髪の毛を束ねて、振り返り、仁王君の胸にトンっと頑張ってねという意味を込めて拳をつく。


そして、さっき開けたばかりのドアをもう一度潜りなおす。


外にいる軍勢に言い分けを言うためにも気張らなくては。
胸を張るように、進む。








  
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