「馬鹿馬鹿しいのう。お前さんも、俺も」

自傷にも似た笑みを浮かべた後、仁王君はポケットの中から密封出来るタイプの袋を取り出して、こちらに投げ渡してきた。


「あれ、仁王君」
「………言わんでいい」
「いやだよ、ねぇ、仁王君。切り口が逆にあるんだけどなんでかなぁ」
「………」
「ふふ、多目に見てあげる。君がどちら利きであったかも目を瞑ってあげよう」

ポケットの中にその袋を入れ込み、パンパンと叩く。
そして、仁王君を魅いるように見た。


曲がった猫背の姿勢は最初に会った時とは変わらず、丸まったままだ。そして猫を思わせる鋭い尖った目はバランスのいい顔にピッタリとハマるように存在する。

仁王雅治。
柳君に並ぶ理的感覚を持ちながらも、へにゃりと笑っておどけてみせる道化のような彼は、しかしながら、接してみると中々に付き合い難い。
彼は柳君とは違い、人間間に距離がなく、べったりと粘着テープのように粘着力を持った人間関係を望む人なので、なつかれてしまったとき、頭がキレるというのも相成ってか、厄介なのだ。

まず、他人と自分を繋ぐ鎖を用意し、それによって縛りつけ、その状況に慣れさせることによって心を堕落させて……。とそんな歪んだ好意の押し付け方をする彼は私の元親友ではあるが、久しぶりに会話をした限りではまだそんな悪趣味な好意の押し付けを継続しているらしい。
あるいは、継続せざるを終えないのかもしれないが。
まあ、そんな彼は味方につけると柳君と同じく、心強くて頼りがいがあるため、味方が限りなくいない私は御の字の限りだ。
味方に引き込めればのお話しだけど。



「さて、余談はそこまでとして、仁王君」
「…………」
「仁王君」
「…………」
「仁王君、仁王君」
「………なんじゃ」
「拗ねないでよ。大きな体をして」


ぶっすりと膨らませた顔、膨れっ面をした仁王君は低い声で答える。


「…柳よりも俺は大きくない」
「柳君は君みたいに本気で拗ねたりしないから比較対象にならないよ」
「なんじゃと!」


心外だ、とでもいうかの如く身振り手振りをした仁王君は丸めていた背を伸ばす。本来長身である彼が伸ばした身長は私の背を軽々と飛び越えた。


「お前さんは騙されとる。参謀マジックで騙されとる。参謀ほどテニス部の中で拗ねるやつはおらん、心外じゃ、大体、テニス部の中で感情の起伏が激しいんは参謀じゃろ」
「いやいや、それはないって」


というか、自分が拗ねていたことに対しての弁明がないんだ……。

なんで、仁王君は柳君のことをよく感情の並みが激しいとかいうのだろうか。
どう考えたところで柳君が上がり下がりがある人には見えない。
それどころか、常に傾かない天秤のような水平で一定のところを保ち続けているように見える。


「柳君みたいに一定な人を見たことがないよ」
「騙されとる。参謀は羊の皮を被った狼じゃぞ?そんなことはありえん」
「うーん、そうかなぁ」


とてもそうには見えないけれども。
でも、もしかしたらそんな柳君もいるかもしれない。
なんていったってここは壊れた立海、正常なものなんて存在しない。

見てみたくないとはおもえないかも知れないよねぇ


「おっと、話が逸れたね。本題、そう、本題だよ、仁王君。君に聞きたいことがあるんだ」
「……なんじゃ?」
「植太麗子について聞きたいんだよ」
「植太麗子…植太麗子」


仁王君は咀嚼を繰り返すように名前を繰り返すと思い出すように頭をひねった。
やがて、諦めたように捻った首を元に戻すと向き直って、へにゃりと口許を緩めた。


「誰じゃ、それ」
「演技が下手だね、仁王君って」
「なんで罵倒されなきゃならん」
「あげたハンカチを忘れたとは言わせないよ?」
「あれは元々俺んじゃ!お前に貰っとらん」
「さっきあげた、という意味だよ。仁王君は一々勘違いし過ぎ。取り敢えず黙って」


う、あー、とバツが悪そうに口許をすぼめる仁王君になんとも言えない脱力感が体を回る。

幼稚園の先生をやっている気分だ。

頭を何度となくかいて、居心地悪気に視線を逸らす仁王君。

その姿が丸井君と被る

いちいち仕草が似ている彼らは本質がもしかしたら似ているのかもしれない。

あるいは、仁王君が意図的に似せているのかもしれないけど。



「植太麗子のファンクラブ会長時代の話が聞きたいんだけど、そこら辺のお話をなんでもいいから話してくれないかなあ?」
「だから、誰の」
「明日、放課後、図書館デート」
「……。なんでもって、せめてなんのことについて重点的に聞きたいんかいいんしゃい」
「ふふ、ありがとう」


変なところでチョロい仁王君をのせる。
案の定彼は乗ってきた




  
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