守りたい人がいた
命を掛けてでも、護り抜きたい人が










パラドックス

















少女が一人。
少年が一人。
見るものが見れば恋人同士に見える二人は、道路を渡っていた。

少年は車道側を行き、少女は月を見上げて微笑む。

「綺麗だね」


隣にいる少年は顔を真っ赤に染め上げてぶんぶんと頷いた。その姿を見て少女は笑う。



「月には兎がいるって言うけど本当なのかな?」


月には兎がいるわけがない、そもそも兎は生物だ。
酸素がない場所に居るわけがない。月で兎が餅をついているだなんて、人間が愚かしい脳髄で決めた妄想だ。

少女は指をさした。
伸ばした指の先には月がある。
まるでどこかのおとぎ話のお姫様みたいに月に未練があるかのようだ。

少年は力強く顔を上げた、強い意思と意志と遺志、瞳に映る願望が、欲望が人間としての存在を認めた。


「月が羨ましい」


少女は儚げな顔を覗かせた後、少年に笑顔を見せる。
繋がれた手が小さく揺れた。
ゆらゆら、ゆらゆら、ブランコのように
いったりきたり、きたりいったり


「ねえ、大好きだよ」


繋がれた手を包み込むようにして置かれた手に少年は頬を高揚させて答えた。


「俺も……好き」


小さな細い少女の手に少年の手が重なる。少女は嬉しいと答えた。嬉しそうに嬉しそうに。
その光景はまるでぽかぽかとした日の日常のように暖かくて、優しくて。
幸せだと、少女は思った。




  
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