そういいながらも笑みは絶対に絶やさない彼女。
どういう家庭環境が揃えばこんなに美しい笑顔の裏にこんな非社会的な人間が住めるのだろうか。
謎よりも苛立ちが募るその笑顔はとても綺麗だった。
儚げというよりは華やかという言葉が似合いそうなその笑顔には曇りが一点もない。
潰してやりたくなるような笑顔だ、まるであの時の植太さんみたいで落ち着かない。綺麗な笑顔なんて、この立海にはいらないのに
素敵な笑顔だなんて、なくなればいいのに。
歪みない笑顔
内面を考慮しない外面だけの笑顔に心底
忌々しいと、思った。




「で、ここからが本題。麗子の取り替えトリック、どうして分かったの?これでもバレないように念入りにお化粧させたのよ?一瞬では別人だって分からないぐらい頑張らさせたのだから」


本題、といいながらも笑顔を絶やさない。
どうやらそれが彼女の基本らしい
少しは真面目な顔をして、ヘラヘラしないほうがいいだろうにと、静かに思った。



「一瞬では見抜けなくても、じっと見とけば分かるんですよ。全く似ていませんからね、あの死体は」
「あら、酷い。ちゃーんと似せたのよ、あの死体。整形は流石に時間がなかったけれど、じっと見たくらいじゃ全然分からないの、二人の娘がそうだったもの。あなた達が見ていただけで分かるだなんてあり得ないわ」
「大層な自信ですが、それは違いますよ。私達は見ていて気が付いたんです。他にはありません。それとも、私達が見て気付いた訳ではないという明確な証拠がお有りになりますか」


私が不遜な態度を取ると、彼女は一瞬目を見張るような表情をしたのちに、破裂するように顔面を緩ませて筋肉を解し、口元をニヒリとあげて上品に顔だけ笑ってみせる


「うふふっ。学生サンなのになかなか手強いわね。証拠はないわ、だから追求はしない。じゃあ話を代えましょう。ねぇ、貴方柳クンっていうのよね?麗子はどんな学生だったかしら?」


私では相手不足に思ったのか話し相手を代えて質問をし始める彼女。
建設的なものの聞き方で、感心せざるをおえないが相手が悪い。

相手は柳くんだ、私よりは多弁で油断も隙も有りはしない。
社交上手で口上手なのだ、彼は。
出し抜けるだなんてあり得ない



「さあ、同じクラスになったことがないので何とも言えませんが、良い噂ばかりではなかったように思います」
「あらあら、そう。良い噂ばかりではない、ということは悪い噂もあったということだわ。もう、あの子ったら、やっぱり上手く立ち回れなかったのね。ちなみにどんな悪い噂があったのかしら?」
「……どのような悪い噂だと思いますか?」


距離を測るというか、探るように、柳君は言った。その表情は少しだけ硬く、氷や鋼を思い浮かばせる。


「そうね。それは部活の―――貴方達テニス部のファンクラブ会長だった頃の悪い噂じゃないかしら」
「………」
「どうなの?私はあっている?」
「どうでしょうか」


氷のように固かった表情に変化がみられ、まるで溶けてなくなっていくかのようにニヤリと、裏がありそうに柳君は笑った。
絵になる構図だったが、画にはならないであろうそれは彼の不気味さと無気味さを強調させる。
裏でなにをやっていても納得してしまいそうになるその顔に隣にいる私まで口元を緩めそうになってしまった。
自重、自重


「あら、もう、ぼかさないで。子供らしくない」
「もう、子供じゃあありませんから」
「まだまだ学校に通っているうちは子供。だからぼかさないで頂戴」
「ではハッキリと言わせて貰います……違いますよ」


キッパリと言った言葉には迷いがなく、それでいて重みがある。


「彼女は、テニス部のファンクラブの会長としては優秀でしたから」
「…まあ!そうだったの?我の子ながら誉められると鼻が高いものね、あの人の子だからかしら!」



植太さんのことを誉める柳君
喜ぶ植太諜花さん。
ここだけ見ていると彼女は、普通一般の親と言われる種族となんら、かわりはないように思えた。
ただ、彼女が親に見えるのはここだけで
それ以外ではない。というのが致命的過ぎるものだが。







  
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