「ねぇ、柳君、一つ確認しておきたいんだけどさ、君が見たその死体は確かに髪が切られていたんだよねえ?」
「ああ、何度もそういっているだろう」
「見てないんだよねえ、私は」
「?……見ていない?」
「確認しに死んだ後の彼女を見てきたんだ、死体の近くにいって救助隊の人達に隠れて見ていたんだよ、だけど、そんな髪の毛の乱れ、知らないんだ」
「確認した?それは病院でか?」
「いいや、学校でだよ。私はあの日病院へは行っていない」


柳君が指を引き、顎に当てる。
悩ましげなポーズの後、柳君はおそるおそるといった様子で、問いかける


「お前はいつ、死体を見たんだ?」
「うん?死体が井戸から上がった直後だよ、確か朝の6時半ちょっと越えてたぐらいかな」
「……、本当にか?」


意趣返しだろうか、柳君が逆に私にいぶかしんできた、どうしたことだろう。

柳君の眉間の深まる、隠す必要のない問題であるし、素直に答えた


「もちろんだよ、それがどうかした?」
「………俺が死体を発見したのは、それよりも一時間程前だ」
「! つまり、五時半前後ってことかい?」



確かに私が死体を確認していた時には柳君らしき人影はどこにも見当たらなかった。柳君は一緒に運んでいた、とそう言っていた訳だから、私は救助隊の人と一緒に死体を運んでいる柳君を目撃しなければならなかったわけなのに、いなかった。
つまりこれは矛盾を示している。
間違っている
間違いさせられている


そして、このタイムラグ

私は6時半に死体が井戸から引き上げられるところを目撃しているが
柳君はその一時間前、5時半に死体を運ぶのを手伝っている

死体を引き上げて運ぶのに一時間程かかったとしても、それでも、柳君が私が引き上げられているのを見た時間帯にはもう死体を運んでいたという、状況矛盾。

二人が間違えている
片方どちらかが間違えているという可能性があってもおかしくはないが、しかし、私は柳君を見てはいないし、逆に柳君も私を見てはいないのだろう。
何故ならば、見ていたとしたらあの質問はおかしいのだから
「お前もあの日早く来ていたのか」
その質問は白々しい問いかけにしかならなかったのだから

だからこそ、そう鑑みると



「二回、死体が井戸に沈められたということになるぞ」
「死体が最初から2つ井戸の中にあって、一回目で見落としていたという可能性はないのかい?」
「俺が運んだ人間は植太麗子だ、制服にちゃんと名前が書かれていた」
「こちらだって書かれていたよ。ということは死体が2つあったとは考えられないか」



流石に2つの別人の死体が同じ人物の死体を着ていたとは考えにくい、そうなると同じ死体が二回井戸にいたことになる


「でも、髪が切られていたという柳君のお話しは私が死体を見た時間より前だ、つまり私と柳君が見た死体は別物ということになるよねえ」
「それこそ、髪の毛が急速に伸びない限りな」
「ということは、私はこのここにいる死体さんの方を目撃したってことだよね」


本物ではない、偽物の植太麗子さん擬き
似て非なる、別物
いや、そんなに似てないから、似てないし非なる別物か

私が見たのはこちらの偽植太さん。少女Aの方
髪の毛が切られていない死体の方


そして、本物の植太さんは、柳君達の手によって救出された。



「ある意味で2つの死体が用意されたわけだよねぇ。でも、そうなると一回目の植太さん(本物)の方を助けて出したあとに、植太さん(偽物)を井戸に入れた人物がいるってことになり、そしてそれは柳君でさえ知らない情報ってことになる」
「……不甲斐ないな、すまない」
「責めてないよ、むしろ私の方が役立たず任命された方がいいような人間だしね、でも知らなかったとなるとその時間帯、私が死体を見た時間帯に柳君は井戸の近くにいなかったことになるんだよね。何処かに行っていたのかい?」
「ああ、少し用事でな。学校を離れて、いた」
「そうなんだ、じゃあ箝口令が裏目に回ったんだね。お陰でこんな勘違いが起こった、いや矛盾が起こったって言った方がいいのかな」


ともかく、植太さんの死体(?)はまた別に存在して、ここにある少女Aの死体は柳君が運んだ後に、また井戸の中に入れられた哀れな巻き込まれ死体となるわけで

そしてその事実を知っている人間が――――植太徹二さん、彼が死体を故意に偽造して植太さん(偽物)を作り上げたということか。


そうなると、柳君と争っていた本物の植太さんの生死については生きていても不思議はないことになる。

本当が死んでいたら、こうやってかわりを出す必要はないのだろうし、そっちの方が手間要らずだ






  
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