植太徹二さんが怒鳴り散らしたあと。
柳君が気取った顔を見せたあと、私は一となりにいる柳君に声をかけた。


「柳君」
「なんだ」
「問題を出すから答えてくれないかな」


我ながらなんていう話の進めかただとは思ったが、言ってしまったのは仕方がない。
腹をくくって発言することにした。


「ある大貴族に生まれたご令嬢は生まれた時より父にの顔でホクロの場所さえも一緒だった。しかしあるとき、そのご令嬢がお風呂から上がったとき、そのご令嬢の小間使いがご令嬢の顔にあるそのホクロの位置が鏡写しのように反対側に出来ていたことを見てしまう。いぶかしんだ小間使いは夕食の時にご令嬢の顔をみた。だがどうしてだがホクロは何時もと同じ位置にある」


私はある物語の筋道をたどりながら、その問題を語る。
賢い彼はもうこの時点で問題の答えや――それ以前の何の実話であるかさえ分かってしまったかもしれないが、そのまま続ける


「小間使いはもう一度ご令嬢がお風呂から上がってくる時にホクロの位置をみた、するとどうだろう。ホクロの位置がまた反対になっているではないか!小間使いは確かめるように夕食にご令嬢のホクロの位置を確かめる。するとまたお風呂から上がって来たときとは逆の位置にあった」


まるで鏡の中から抜け出したと言わんばかりのご令嬢の姿を彼女の顔で連想させる。
そうなると、私が小間使いということになるのだろうか

まあ、そう考えて、実際の現実に当て嵌めてみると、小間使いはお風呂から上がったところではなく、水をかけられた可哀想なご令嬢を目撃しただけである。


「―――さて、賢い柳君にお聞きしよう。何故ホクロの位置が違うのだろうか?」


物語を締めくくるように最後の疑問文を投げ掛ける、柳君は果たして、簡単だと答えてくれるだろうか

内心はらはらドキドキしながら、彼の返答を待つ。



「…簡単なことだ、ホクロ位置を化粧で書きかえているのだろう。この場合お風呂に入った後のホクロの位置が本物の位置だろうな」
「正解、流石は柳君だね」


ものの見事に言い当てられてしまって、パチパチと手を叩いてしまいそうになった。
丸井君だったら首をひねりひねり。答えなんて二の次で、まず問題文さえ追い付くのがやっとだろう。

問題文に追い付いたところで、『鏡から抜け出してきたんだぜい!』と言うに決まっている。
彼は外見もバカだが、内面もバカなのだ。

柳君とは、対局をいく。

それでも結構柳君と丸井君って仲がいいんだよねえ。
なんでなんだろうか



「では俺もお前に一つ問題を出そう」
「なにかな?」
「簡単な問題だ。名前だったらすぐに分かるだろうことだ」


買いかぶり過ぎだなあ。
実は私、あんまり成績は芳しくないんだけどねぇ。
まあ、授業中に丸井君の落書き教科書に書いておけば、そりゃそうだろうけど。


「自殺をしてしまった娘の親は保身の為にその事実を隠蔽しようとした。一方、自殺をさせてしまった学校側もその事実を隠蔽する為に秘密理に会合がなされ、残りは書類の提出だけとなった。しかし」


柳君は私に問いかけはせずに続けた。なんだか分かって当然だ。とでも言わんばかりである。



「その事実に勘づいた警察が自殺した親を監視している。学校側は残る書類の提出を急ぎたい、何故ならば、相手はいつ裏切っても可笑しくはないからだ。書類さえ受理されなければ契約はなかったことにされるらしい」


警察という言語により、犯罪性が一気に上がったような気がしたのはきっと気のせいではないはずだ。

柳君の声は抑揚なく続ける。なさがらロボットのような決まった語り口、プログラミングされたような正確な物言いで問題を語っていく


「そこで学校側はある手段を使って自殺した相手側の親に書類を渡すことに成功した」


言葉が止まる。
その続きは溜められた。
そして、吐き出される
「―――さて、ある手段とは一体なんなのでしょうか」
「………はっ」



…―――名前なら知っているか。
そりゃあ知っているだろうね
いや、寧ろ見ていると言ってしかるべきか

目の前で行われていたのだから見ていないはずがない。
分からないはずがない。



つまりは私の目の前で犯罪が行われてしまったというわけだ。

そして、目の前にいる彼は―――柳蓮二という男は、それを知っていてあの封筒を渡した共犯者ということになるのだろうか。

とはいえ、自殺をした娘のことを学校側と結託して隠すということが法を犯すことになるのかというところにおいてすれば、私はよく分からないのだけれども。

しかしながら、見つかって警察沙汰にまで発展すれば、自殺した親の方はともかくとして、学校側は大ダメージを受けるだろう。
それは警察が怖いというわけではない、その事件という蜜に群がってくる虫達、パパラッチ、日本語でいうのならばゴシック記事を書くあの人達。

彼らが一番怖いのだ
なによりも、どこよりも
人の事情に勝手に近寄ってくる、不躾な連中が。
スポーツ選手を育てている、体育特化の立海ではなによりも、恐い。

柳君もそれが怖いのだろうかと考える。
怖いに決まっているか。
彼も有望株の一人
立海の期待の人間なのだから怖くない筈がない。私だって恐ろしくて堪らないのに、柳君が違うだなんて考えるのはおかしいことだ。

問題の答えを彼と同じように口にするため、唇を開いて音を発生させる
柳君は動きを緩め、耳に髪をかけて答えを待ってくれていた


「決まっているよ、お葬式の時に渡したんだ。お葬式じゃあ大勢の人間が来る、そんなところで渡したら誰も分からないだろうからねえ。しかも、柳君みたいな善良そうで真面目そうな生徒が渡すんだったら特にバレないんだろうからね、まあ、これは一つの例のようなものだから本当かどうかなんて分からないのだけれども――――さて、私の推測はどうだろう? 正解?それとも失敗?」





  
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