植太徹二さんの情熱溢れる瞳はこちらを見る。
ぶっちゃけるとかなり暑苦しい視線だ。


「……私ですか」
「そう!お嬢さんに聞いているんだよ、どう思いましたかな?」
「あの、誰の何をどう思っていると聞きたいのですか?そこによると思いますが」


主語述語を上手く操れない人間が社長で、大丈夫なのかな、化粧品会社さん。


「彼女、あの子だよ。さっき封筒を預けた奴だ。どう思われましたかな?印象等をお聞かせ願いたい!」
「印象……ですか」
「ええ!嘘偽りなくお願いする」
「はあ」


そうですね、と顎に手を当てて考え込むポーズを取ると柳君も少し興味がありそうに私を見た。


嘘偽りなくと言われたのならば仕方ない。

ぐうの音も出ない程に仕返ししてやりますか。


「礼儀がなっていない、でしょうか」
「礼儀が、な……えっ?」
「先ずはお化粧からです。通常的にお葬式では濃いメイクは好かれていません、濃厚すぎる香水も好まれませんが、あれほどに濃い、顔の白さを際立たせるようなお化粧は場違いにも程があります。それにそうですね、衣装についても好かれるものじゃあありませんでしたね。お葬式ではフリルの多いスカートや短いスカートは嫌われてしまいます、それにあの髪留めやイヤリングは金具類に入りますからご法度でしたね、お葬式ではマナー違反です。洋服も少し金具類が入っておられましたし、あれでは余りにも考えなしですよ」


言葉を並べる度に植太さんは長々とした言葉に囲まれるように目玉をぐるぐるさせる。


「それにお焼香のマナーがなっておられませんでした。まるで初心者のようなたどたどしい手付きで間違っている作業をされていましたよ。お焼香は左でやるものではないと教えてあげておいて下さい」


柳君が隣で微笑する。
苦笑と言い換えても差し支えはない笑い。

植太徹二さんは目玉をやっと元の位置に戻して荒い息を吐き出した。



「私は、お嬢さん、雰囲気というか……だから…」
「分かってますよ、つまりはお化粧の宣伝をしたかったわけですよね。仕事熱心なのは美徳ですけど、時と場合を弁えないと売り込みは役にたちませんよ。お通夜に飾り気のあるお化粧なんてしていったら死者への冒涜の極みですから」


彼はこんな小娘ごときを理由して柳君に売り込もうとしていたわけなのだろう。

柳君は私の事を恋人だと紹介したし、あの女性のメイクはかなりよかった。
印象…などといって此方側に綺麗だと言わせるように仕向け、化粧品の売り込み。

素晴らしい商売魂だ。
なにもわざわざ娘の通夜の時にやらなくていいとは思うけど。



柳君に目を配る
彼は瞼を閉じて、植太徹二さんに向きを合わせてお辞儀をする。
それを切っ掛けに彼は歩き出し、私もそれに引っ張り込まれるかのように従った


「ああ、そうでした」


数歩、歩いて柳君は思い出したように言う。
目を閉じたその顔から悪者みたいな笑みが浮かび上がる。


「娘さんの―――植太麗子さんの写真を撮っても宜しいですよね」

植太徹二さんはまるでうわ言のように何回も頷き嗚咽のように
「――あ、ああ」
と答えた。


柳君はその言葉に満足そうに頷くと「ありがとうございます」と背中を向けながら謝礼した。




その後、ちゃんとした意識が戻ったのか。
子供ごときに丸め込まれたのがバレたのか分からないが、植太徹二さんはタクシーを回せという怒鳴り声をあげながらご退場されていった。


その声に肩をすくませると隣にいる彼が少しだけ気取るように笑ったのが見えた。





(20110323≠参謀というには極めて危険な存在で)





  
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