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ええ、もちろん、その命でお支払い下さいね










パラドックス
















「あの子は、綺麗な子でした。私達に幸せを運んでくれる天使のような存在だったのに、今その笑顔がこの世に存在出来ないことを、残念という言葉では表すことが出来ないほど、悲しくて、悔しくて仕方ありません」


彼女の声は、この場に響き渡る
響いて、仕方ない。
まるで植太さんに聞かせたいとでもいうかのようだ


「麗子、私の娘。いつまでも、どこまでも、私の娘。忘れないわ」


忘れない、か。
へえ、本当かなあ。
忘れないだなんて、本当にあるのだか


「愛してる」


愛してる
あいしてる?
愛してる子をすぐ出棺する母親なんているのかな
そしてそんな人を母親だなんて言っていいのかな


「愛しい、貴女の母より」


母親、ねえ
私の叔母さんよりも母親らしくない人だなあ

隣の柳君を垣間見ると彼専用のあのノートに何事か書き込んでいた。
机はないので手を下敷きにしている彼は制服と合間って、語り部さんが語っている言葉を書き刻んでいる修学旅行中の学生のように見えた。
まあ、素晴らしい程に絵になっているんだけどね。


柳君から目をそらして親戚の席である前の方を見る。

親戚席の人数はおよそ十人、若い娘が二人隣合って座り、その一つ飛ばし先に挨拶を終えた植太さんのお母さんと思われる人物が座る。

植太さんのお母さんの隣には七十才は軽くいっているのではないだろうかと思う程の御大老で在らせられる還暦ある老人が座り、その横に支えるように慎ましい優しそうなご老体が座る。

そしてまた一つ空き、今度は威厳漂う男が胸を張って座っていた、多分この人が植太さんのお父さんなのだろう、目の作りがどことなく似ている。右目元に黒子があるのも同じだ、どうやら植太さんはお父さん似らしい。

植太さんのお父さんの隣には、上品を纏った、昆虫類系の目をした女の人とルイヴィトンを侍らせてでもいるような老紳士。


こう見てみるに、植太さんのお父さんが婿養子に来たということは考え難いだろう。植太さんのお母さんは嫁入りしたのだろう、ということは本家当主が植太さんのお父さんということになるのだろう。


まあ、一つ疑問符を挙げるとするのならば、あれかな。
みんなして、なんで離れて座っているのだろうって、そんなところなんだよね。

仲悪いのかな、家族で


でも、植太さんのお母さんは信用は出来ないものの、言葉は無下に出来ないぐらい愛情たっぷりあったんだよね。

つまり、植太さんの母さんは植太さんを凄く大切にしている、ってことなんだろうなあ。

でも、そう考えると、やっぱり今日の内に火葬するのは可笑しいんだよねえ。






  
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