称賛される者は必ずといっていいほど強者である
でも称賛されないものが必ずしも弱者であるとは言ってはいない
パラドックス
私が受けているわけではないが、その行為を見ていると自分がその行為を受けているような、そんな感覚に襲われる。
イジメと世間一般的にはそういうらしい
漢字では虐め
虐待の虐
虐殺の虐
この学校は物騒なものだ
そう思いながら今にも死にそうな彼女をつつく
蠢く彼女、生きてはいるらしい
名札には植太(うえた)とかかれている。学年は三年生、私と同じだった
ほー。こんな人見たことなかったが、同じ学年、同学年とはね
もしかしたら私だった人かもしれないと思うと心がざわめくねえ
「おーい?生きてる―?死んでる―?」
「…………生きていますわ」
「おや、それはよかった。もしかしたら植太さんが死んだかと思ったよ」
「……無礼なこと言わないで下さらないかしら」
「これは失礼」
貫くような鋭い目に睨まれて肩をすくめておどけてみせる。
彼女の髪は金髪の髪の毛、瞳の上にある睫毛の長いこと長いこと。
ぷっくらとした唇には口紅が少しだけ残っていて、ファンデーションが塗られていたであろうその顔には粉っぽいファンデの後が残っていた
左目元には大人ぽいホクロがある。
――思い出した。
この人、元ファンクラブの会長さんじゃないか
綺麗な美貌がテニス部の皆さんにモテて、遊び人形にされたって噂の
モテモテの会長のなれの果てがこんなのねぇ。
どーじょーしますよ
「ワタクシを笑いにきたのかしら?笑いたければ笑いなさいよ、大声でね」
「うん?別にそうじゃないよ。ただ単に偶々ここを通っただけ、でも君が笑っていいなんていうから笑っちゃおうかな。うふふふふ、バッカっだなぁ!君って」
「!」
「あははははぁ、ふぁ、ああ、ごめんなさい。君があまりにも不様で無様で滑稽で面白いから、ついつい笑ってしまってね。これを笑っていいと言ったのは君だからね、恨まないでくれるでしょ?」
「……女に二言はないわ」
「ひゃあ、カッコイイねえ。ヒュウヒュウ、これでコテンパじゃなければもっとなのだけど」
「ワタクシだってコテンパになりたくてなっているわけじゃないわ」
「そりゃあそうだろうねぇ、コテンパになりたくてなっていたら私は明日から君をMっ子ちゃんと呼ばなくちゃいけなくなるよ」
「……アナタ、ワタクシに何か恨みがあるのかしら?無害そうな顔をして毒を吐かないでくれる?」
「無害そう?おやおや観察眼を磨かなくていけないんじゃないのかい、君は。教科書にでも載っているよ、無害そうな奴が一番厄介で下劣だってことぐらいねぇ。それは覚えがあるんじゃない?」
だいたい、無害そうってどんな顔なんだろうね。まさか人の顔をさして言っているわけじゃない、よねえ
「……アナタはワタクシを笑いにきたわけではないようだけど、ワタクシを知らない訳じゃないのね」
「それはそうだよ。君のこと、この学校で知らない奴はいないからねぇ。恐れながら無害そうなこの私でも君の知らないわけない`お姫様´」
植太麗子(うえた れいこ)
三年生、元テニス部ファンクラブ会長それにして元ハーレムのお姫様と名高い女
今やその名声さえ失われて、テニス部公認の虐められっ子になっている。可哀想なお姫様
テニス部公認ということは学校全体で虐めていいと許可されているということに等しく、五百人近くいるこの学校で彼女はイジメられている。
「ちなみにここで君のその折れそうなぐらい細い手を私が踏んづけたところで誰からも文句は言われない。それこそ、逆に感謝されてしまうだろうねぇ。ふふふ、ねえどんな気持ちなのかな。人生のジキルとハイドをいっぺんに感じた感触は?」
まあ、ジキルとハイドっていうよりは、天国と地獄って感じだろうけど
「最悪な気分よ。もちろんね」
「ふふふ、でもしょうがないさ。君はこれをやってきたんだから、君は文句すらまともに出ないはずだよねえ。嗚呼、滑稽滑稽」
「……っ!なんですって!」
「……今更被害者ぶるなよってことさ。君はこれまでいろんなことをやってきただろう?命じてきただろう?君がやられている関連のものも中にはあっただろう。それさえも君は命じてきただろう、だから文句なんて言えない。言っちゃあいけないんだよ」
`テニス部に関わる女には制裁を´
植太麗子がやってきたことはほとんどが男子テニス部の人間関係についてであった。そう考えると一番最初に思いつくのは牽制。牽制といってもほとんど虐め同然だった。
登校拒否者が二人も出てしまったあの状態で文句を出したらそれこそ他殺ものだろう。だからと言っても植太麗子がそれを悔い改めるだなんて選択肢あるわけないのだろうが
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