「嫌われたままの最後、か」
「文字通り、デットエンドだな」
「…いやはや、植太さんには続きたくないものだね」
「そうだな」



嫌われたまま
嫌われ続けて、忌み嫌われて
どんな終わりを向かえたんだろう
どんな最後を迎えたんだろう

私には、分からないだろうけど、彼女にとっては

生きているのさえ辛くなるような、そんなものだったんだろうな。


辛いとさえ
堪えられないとさえ
言えないような、そんな

そんな、ものだったのだろう。



「柳君、君には分かるかい?植太さんの気持ち」
「俺にはわからないな」
「そうだよね、私にも全然だよ、全然わからない。私は気持ちを汲む事は出来るけれども、気持ちを読み取ることは出来ない。でも、だからこそ、言葉がある」


でなければ、言葉はなんのためにある?
ただ単に音を出す運動ではないのだ。
気持ちを伝えるためにあるというのに


「それなのに植太さんはその行為を破棄した。拒絶したと言ってもいいだろうね。彼女は逃げたんだ、なにもかもから、ね」


死んでからの方が悪い扱いを受けているというのは、彼女には悪いが、逃げた彼女が悪いと私は思っている。

逃げて得るもの等一つもない
減るものばかりだ

だから、彼女の自業自得
因果応報というわけだ。


「逃げるという行為は最悪な結果を生む一つの生産行動だ、私だったらそんなこと絶対にしない。人生から目を背けるだなんて、絶対しないよ。それに出来ない。私は自殺が怖くて怖くて仕方ないんだ、いや、自殺がというよりも死ぬのが怖い、なによりも、どんなことよりもね。だから私には分からない、分かれない。植太さんの気持ちが、わからない」


死ぬより怖いことはないだろうに、死よりも怖いことがあるだなんて、私にはわからない
理解は出来る、だけど納得は出来ない。
そんな感じだ。


「私は知りたいんだよ、柳君。死よりも怖いものがあるのか。だから、私は此処にきた、植太さんが何によって死んだのか、どんな怖いものだったのか、どんな原因だったのか、どうしても知りたい」


そうじゃない限り、手伝うことだなんてする事なんて無理なのだから。

私は心が、優しくないから
壊れて、いるから


「だから、来たんだ。最後に会いにね、物言わぬ死体であろうと、物見ぬ死体であろうと、手掛かりはないわけじゃあないはずだからね」
「――それは、そうだろうな」


柳君は少しだけ達観したように目を伏せて同意をしてくれた。
その顔を見ながら、私は少し落ち着いた。
ここにいるのはちゃんと意味がある。
柳君と一緒に居るのにも意味がある。
私はまだ死ねない


「俺も、興味があるしな」
「あれ、柳君も?」


そういえば植太さんについて、色々と調べていたっけ。
そう鑑みると、当然といえば当然なんだよね。


「まさか、浮気?」
「まさか」
「死体に恋心を抱くような趣味はない?」
「ない」
「ふふ、じゃあまあ、信用しよう。柳君が死体に恋い焦がれる性癖の持ち主ではないと祈りながらね」
「名前」
「…な、なに、?」



柳君の顔がまた近付く、目は薄く開かれて、彼の綺麗な目が見え隠れする。



「俺は、お前の死体だったら、死んでからも愛してもいいと思っているぞ?」


……全くにして、本当にファンサービスが素敵過ぎる柳君である。
いや、すっごい胸が痛いけれどね。
ドクドクがもの凄い早いんだけどさ、これはあれだ、動悸。動悸のはず。


「顔が赤いな、どうかしたか?」
「べ、別になんでもないよ。柳君のこと想っていただけだから」
「そうか」
「うん」


近付いていた顔が離れると一層に胸が早くなる。
おかしい、全然おさまらない。困った事に、全然
多分、柳君が間違って胸に手でも置いたらそれだけで胸が早くなったのを悟られてしまいそうだ


「……手伝おう」
「えっと、何を?」
「調べるのだろう?手伝わせてくれ」
「いいのかい?」
「ああ、その為にお呼ばれしたのだと思ったのだが?」
「お呼ばれって、」
「呼んでなかったか?」
「……呼んでたよ」
「じゃあ、いいだろう」


いや、確かに柳君が手伝ってくれるというのならば、それほど助かることはないのだろうけれども


「手伝わせてくれ、丁度お経も終わったことだしな」


耳をすますと確かにお経が終わり、阿弥陀仏と囁かれる声が聞こえた。
礼拝とアナウンスで囁かれ、続いてご住職の退場



「本当だね、さてとじゃあまずは戻ってお話を聞かなくちゃいけないな」
「お別れの言葉というやつだな」
「母親が言うのは、父親が言うのか、はたまた妹達が言うのか、言うにしてもどんな風にいうのか。聞き所は沢山あるね」


柳君が頷く、ご住職は帰られたようだ、アナウンスが響く、社交辞令と雰囲気造り、間役を勤めているその言葉が聞こえる。


「じゃあ、今の内に」


鍵を開けてドアを開ける。
涼しい風と共に、線香の芳しい匂いと焼香の匂いが漂う

死人への香りの贈り物にしてはいくらか楽しみに掛けている匂いであった。



(20110303≠死者への手向けではない、今は)





  
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