理性の反対は本能であり
本能の反対は理性である
では、反対の反対はなんというのだろうか
パラドックス
「とりあえず」
「うん?」
「傷口を巻かせてくれ」
うん、と答えると取り出した包帯でクルクルと巻き始める柳君。
ポケットの中から包帯が一つ。
叩いてみても2つにはならないはずだ
「いつもポケットの中に入れてたりするのかい、包帯」
「たまたまだ」
「たまたま、ね」
たまたまで包帯をポケットに入れているってどんな学生さんなのだろうか。
それともテニス部の皆様は学生らしくない物を持っているのが、規律なのだろうか。
丸井君のチェーンソーしかり
……そんなテニス部、嫌すぎる。
「……お前はもっと自分を大切にするべきだ」
「学校の先生に他人を大切にしなさいとは教えられたけど、自分を大切にしなさいとは教えられてないからね、別に大切にしなくてもいいじゃないか」
「そういうのが、いけないんだ」
包帯の上から傷口をなぞられる。
蜂に刺されたらこんな感じなのかなと思うような痛みが走る。
丸井君から締められた後は、まだそれぐらい強く残っていた。やんわりとさわるだけで、血が溢れてしまいそうになるぐらいには、強く。
首元には白い包帯が綺麗に巻かれていた。
彼は刺激していた手を離すと私の前髪の長いところをとって、耳にかける。
「出来たぞ」
「ありがとう。やっぱり巻かないと駄目だね、よく空気に触れてヒリヒリするよ」
「包帯は家には?」
「あるよ、だからくれなくて大丈夫」
「そうか」
柳君は包帯を出した時とは逆の手順でポケットになおす、その行動がまるでさっきの光景を逆再生しているように見えて瞬きを早める。
そんな私を柳君は微笑ましいとでもいうように頭を撫でながら微笑する
妹として見られている感じがプンプンした。
いや、確かに本命では私はないのだろうけれど、こう、心の中にある自尊心が嫌だな、嫌だなと言っている。
というか私はなんで柳君相手だとこんなにも幼くなるんだろう。
いつも近くにいた人間が私よりも精神的に幼かったからか、それか私以上に柳君が大人びているからかも知れない、どっちにしてもいつもの私と比べるとかなり子供っぽい
そんな自分に若干の苛立ちを募らせるがなんというか、キャラじゃないため、直ぐに切り替えた。
自己嫌悪なんて、今やる必要ないだろう。
いつだってしてるし、出来るんだから。
「まだ、終わってないみたいだね」
ドアに耳をぴったりつけて外の様子に聞き耳をたてるとまだお経が終わる様子はなかった。
私は別にお経を聞きにくるためにここにきたわけじゃない、お経が終わった後を調べにきただけだ。
お経が終わった後、別れの言葉という家族の言葉とそしてその後の死体を見れるという行事。
それだけを伺いにきたのだ
「あれだけの人数がいる葬式ならば、お経も三十分から一時間程あるだろうな。式全体で考えると一時間半は確実に要するだろう、確率は85%。まだ開始されて三十分も経過していない、お経が終わるのを待っているんだとしたらあと早くても十分は待つ必要があるな」
「しかもそれは早く終わってもってことでしょう?つまるところ、遅く終るならばもっと待たなくちゃいけないんだね」
「そうなるな、まあ、最後の別れの歌だ、無下にしてやるものでもないだろう」
「お経を歌だと判別するのは珍し過ぎるけどね。まあ、確かに文句をいうものじゃないか、植太さんにとっては最後の歌になるみたいだしね」
スケジュール的には明日に出棺するのではなく、今日の内になっている。
話題を拡大させたくないのと明日までの手間が問題なのだろう。
化粧品会社の社長さんか。
なかなか休める立場ではないらしいね、それこそ実の娘のお葬式であったとしても、平気で仕事に行けちゃうぐらいには。
「皮肉と言えば皮肉なのかな、どちらかというとまだ生きていた時のほうが構われていたんだよね、植太さんって。死んでからはみんなめっきりだ、その事実さえ知らない人は沢山いるけどね、でも死んでからのほうが孤独だよ」
邪魔者扱いのように直ぐ様出棺されて、物言わぬ骨の姿になって
彼女が迎えたかったエンドってこんなのだったのだろうか。
まるでこれじゃあ、アンチエンド
嫌われエンドだ
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