私はその人達の一人、顔見知りにして恋人ごっこの相手である彼を私は恋人を路地裏に連れ込むようにして招き入れた。



場所は個室用の空き部屋、部屋には内側から鍵がかけられる用になっており、私は彼を連れ込んだ後直ぐ様鍵をかける。扉の外ではお経を読む男性の声と愁愛ただようバックミュージックがかかっていた。



葬式中に逢い引きみたいなこの行為は不謹慎であることは拭いきれない事実ではあるものの、彼は眉を潜めるだけで私を咎めはしなかった、甘い人である。

それが命取りにならなければいいと心の中で思っておくとする。



彼のきっちりと締められていたネクタイを緩めると柳君はシャツの一つ目、二つ目とボタンを外して鎖骨を見せる。


素晴らしい鎖骨であった、女の子が見たらそれだけでメロメロになってしまうかもしれないほど綺麗なものである、鎖骨フェチではない私が見ても素晴らしいと思えるのだから、フェチさんが見たら発狂する程ではないだろうかと密かに思った。



「君も朝早く来ていたんだね」



柳君は緩められたネクタイを調節して私を見た。
彼は私と同じ制服で葬式にきていた。冬用の制服のため長袖であり、暖房が入っているここでは少し暑そうに見える。



「お前もあの日早く来ていたようだな」



彼の質問に縦に顔をふると彼の口はゆるりと緩む。

箝口令を出されていたからなのだろうか、どことなく緊張していたのだろうその口は枷が外された後のようにリラックスした。



「どうもちゃんと眠ることが出来なくてね、その日は早く行ったんだ。君は?」
「部の朝練だ」
「へぇ、それはそれはお疲れ様だったね。いやいや、この場合は御愁傷様というべきかな?全く、植太さんも場所を選んで死んでくれればいいものをだよ」



それはもちろん学校で死ぬということの批判でもあるわけなのだが、丸井君が壊した井戸で死ぬという困ったことをしてくれたという意味でもある。

間違って追及されれば丸井君が痛い目に合うことは必至だ。
それは避けたいというもの



「確かに、ここで言うのもなんなのだが、立海で死ぬという選択は賢いとは言えないな」
「だよねぇ、大体、自殺って言ったら払拭されないように目立つようにしてやるものだよ、夜な夜なひっそりとだなんてやっていたら自殺事態なかったことにされるというのにね」


それほど錯乱していたのかなと柳君に同意を求めると「どうだろうか」と模範的な答えたで返された。

でも確かにそんな事情、本人にしかわからないというものか。



「まあ、植太さんがそれでいいって思ってやったことなのだから、私が何を言えるわけじゃないんだけどね。それに植太さんは死んでしまったし、今更何を言ってあげれるわけもないし」


自殺というのは死ぬことを自分の決めるということだ。

誰の為でもなく自分の為に死ぬから自殺。
だから彼女は自ら選んだ
たった一つの終ったやり方で
例えその選択肢が間違っていても、人生にセーブポイントや生き返りの薬などはないのだから、もう彼女が復活することはない。

私が彼女に会う機会はもはやない、そう断言していい

この日、出棺の前の限られた夜を除けば







  
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