ワタクシは悪くないと言ったら彼女はあざけながら笑った
ワタクシの下に付きなさいと命令したら彼女は呆れながら罵った
ワタクシが泣いたら彼女も一緒に泣いてくれた
パラドックス
保健室の白がここまで澄みきっていると知ったのは今日が初めてだった
それ以前に保健室でこんなにもじっくりとしたことなんてありはしなかったのだ。
ワタクシは彼女が座っていたその椅子に腰掛けて、消毒液漂う保健室を見渡した。
ここからだと保健室のベットから消毒瓶に至るまで全てを見渡すことが出来た。
「あ〜あぁ、結局、名前聞けませんでしたわね」
自傷気味に呟いてみせると、こないだから思っていたっけと思い出してしまって、また落ち込んでしまった。こないだ踏まれたときに聞く予定でしたのに、何故だか協力をしてくれなくなって、だから名前が聞けなくなって。あーぅ、そう思ったら、なんで彼女なんかにいろいろ話してしまったのか、分からなくなってしまった。ワタクシ、頭を踏まれた相手になにペラペラ喋っていたのかしら、アホすぎるわ。
そう思いながらクルクルとしたワタクシの髪を弄ぶとファンデが落ちていることに気がついた。こんな姿で廊下をウロウロしていただなんて赤面ものだ。
私はポケットの中に指を突っ込んでポーチを探る。
そして、中をグルグルと掻き乱すようにして回すように探った。
けど、ポーチを見つけることが出来なかった。
「……そうよね、あの子達に取られたのだったわ」
笑えてくる。自分の所属していた場所に虐められて、それでいて虐めを先導しているのがワタクシが心の底から応援したグループで
心の底から苦笑しか浮かんでこない、ワタクシはポケットから指を取り出して、自分の顔に指を這わせた。
たぶん随分とみっともない顔になっているだろう、きっとワタクシが生きていたなかで一番みっともない。
死に化粧が最後にしたかったというのに、出来ないのね。
最後ぐらい、綺麗に死にたかったというのに
頬に触れた手を見るとファンデが手についた。
水が滴っていてどことなく粉っぽい。唇にも触ってみた。今度はなにもつかなかった。グロスはもう取れさってしまったらしい
素っぴんで死ぬなんて、女の恥
でも、仕方ないのでしょう、それがワタクシの価値ある選択。
学校にいる敵に一死報いるための、選択なのだから
だって最後にはギャフンって言わせたいじゃない。
ワタクシは椅子を立つ。
もうそろそろ彼女は帰ってしまっただろう。
でも、テニス部はまだ活動をやっているはずだわ。
最後に彼らを見ておきたい。ワタクシは彼らをいつも応援してきたのだから
ワタクシは純粋に彼らを応援していたのだから
最後ぐらい、最後ぐらいなら、
―――感傷に浸りながら王者立海を見たって、許されるはずだわ。
許してくれるはずだわ
一歩一歩、確実に進んでいくと残り少ない砂時計のように名残惜しい気分になる。こんなことなら、雅治に告白すればよかったなぁ。なんて思った。
きっと、断られるんでしょうけど
あの人がワタクシなんか見ているわけがないのよね、アハハ、本当に馬鹿馬鹿しい、何のためにこんな厚化粧なんかして綺麗に見せたがっていたんだろう
見てくれないだなんて最初から分かってたろうに
見ても、綺麗とも誉めてはくれないのに何を考えているんだろ
「あーぁぁ、馬鹿馬鹿しい、アホアホしい」
そんなワタクシが嫌になる。
雅治を諦められないワタクシが嫌いになる
諦められていたら、ワタクシはモテモテだったかもしれないのに
あの子にも呆れられずに済んだのかも知れないのに
「今更、ですわね」
言い訳のようなことをワタクシは口ずさんで、ドアの前に行く、そういえば服を置いたままだったなとベットの上に置いた服を取りにいったら、後ろからドアをガラガラと開けられる。
使用中って札下ろしておきましのに、なんで入ってきたのかしら
とりあえず振り返って先生はいませんわよと伝えなければ行けませんよね
そう思って振り返る
―――そこには黄色いユニフォームを着た、銀髪の髪をした、口元に黒子がある、私が好きだった
「雅治っ」
仁王、雅治がいた
戻る