じゃあ、どうするのだろうかと私は抵抗もせずに彼がなにかをするのを待った。
這われていくその手は今にも私の首を力一杯に締め上げることができ、一発とは言わないものの殺すぐらいは簡単だ。
しかし仁王君は脅しただけだというようにすぐに首から手を離しその手をブラーンと私の肩に置いて髪の毛を弄り始めた。
尻餅つかしてまでこの人はなにやっているだろう


「…何してるんだい?仁王君」
「………」


私の髪を弄りながら右の耳にふぅーと息を吹き掛けていた仁王君は私が声をかけたとたんに弄っていた手を止める

なんでだろうと、衝動的に首を傾げるといきなり顎をひかれて上を向けさせられた、いきなりのことに目を開いたり閉じたりして驚いていると、白い指らしきものが私の目にうつり、そのまま見える景色が真っ暗になった。


「仁王君?」
「………」


なにがあったのか、よく分からない。
目の前が真っ暗になった
いきなり脱力感と、睡魔が襲って、私は目を閉じる

肩の荷がおりたようにぐったりなって後ろにいる仁王君に椅子にでももたれ掛かるように寄り掛かった


痛い
そして、眠い
意識が混濁していく
黒い眠りにつくように
ぐったりと


「いるーじょん」


している暇がなかった。

ひらがなかなり発音悪く耳元で言われた言葉に君誰だよと振り返ってしまった。
後ろを振り向くと膝立ちをした、してやったりの雰囲気を醸し出している無表情の仁王君がいる
しっかりと見ることが出来た彼は眉一つとして動かさずに立ち上がり、私に手を差し出した。

その手を取って立ち上がると服をパンパンと叩いてみせた
仁王君はそれを終わるまで無表情で見届けて、口を開く


「お前さん、」
「喋れたんだ」
「お前さん、こんな時間になにやってるんじゃ?」

無視された
華麗にスルーだった


「保健室に行っていたんだよ、私がきた道には保健室しかたどり着くものがないからね」
「ふぅん」
「あれ、なんだか反応が薄いなぁ。君が聞いてきたんだろう」
「別に社交辞令じゃよ、気になって聞いたわけじゃなか」
「つれないねぇ」


まあ、仁王君が私にこういう反応を示すのは当たり前か
つれなくても、へこむことはないよねぇ
私は彼を見る
先ほどとは違い、彼の姿がちゃんと見えた
やはり表情は無表情のままだが
もしかしたら、氷帝の忍足君という天才の真似をしているのかもしれない

しかしながら私と会うときはいつも忍足君の真似をしている。
つまるところ、私と会うといつも無表情のため本当に嫌われているのかもしれないなぁ
心を閉ざされているっていうのは地味に辛いねぇ



「じゃあこっちからも社交辞令を一つ」
「なんじゃ」
「君は保健室になんのようなのかな?私には君が怪我をしているようには見えないのだけれども」
「足を怪我したんじゃ、捻った」
「嘘だね」
「嘘じゃよ」
「嘘つきさんだなぁ」
「お前さんは正直者じゃから刺激が強すぎるじゃろ?」
「ふふ、私は正直者でも、汚れていないってわけじゃないさ。これぐらいを刺激とは呼べないね」
「それはまた、畳重」


仁王君は微笑む
その笑顔はお前なんか死ねばいいと顔にデカデカとかかれているような、汚い穢れた塵でもみるような顔だった。

私はそのお顔を見ながら唇を弧に描く。そんな私を見て仁王君は苛立ちそうに舌打ちをして私を睨んだ


「はよう帰りなっせ、またブンちゃんに問いつめられることになるぜよ」
「ふふ、そういうときには君に助けて貰うから大丈夫だよ」


冗談で言うと、穴があと二睨みぐらいで開きそうなぐらい睨まれた
冗談だよと返すと睨みが少しだけひく


「保健室、植太さんがいるよ」
「……植太って誰じゃ?」
「惚けてる?君たちが虐めてる子のことじゃないか」
「誰のことじゃ?」
「惚けているんじゃあ、本当にないのかい?」
「植太って、本当に誰じゃ?」
「……ふぅん、そう。知らないんだね、いやはやそれはごめんごめん、早とちりだったみたいだよ」
「………」


コート上のペテン師ねぇ
真剣勝負のコートの上でさえ信用ならないのに日常で信用出来るとは欠片として思えないけどね
今だけ乗ってはおきますか


「じゃあ、私はもう帰ろうかな。暗くなってきたことだしね」
「そうじゃのぅ、お前さんみたいな非力な女子ははよう帰った方がよかな」
「ふふ、そう、非力ねぇ」
「……なんじゃ?」
「いいや、別になんでもないよ。楽しかったよ、仁王君、君に久しぶりに会えてよかった」



そういって彼の足ともども上履きを踏んでやると、彼は顔を歪めて私を一秒ほど見て無表情に戻る。
昔は綺麗に笑って別れたこともあるっていうのに過去とは無情の限りである


「じゃあのう」

お互いに背中を向け合い、一歩ずつ遠ざかっていく

コツンコツンと上履きが廊下の床にあたり音がする
仁王君は二三歩進んで、そして止まった

何かいい忘れたことがあったのだろうかと立ち止まると仁王君は後ろを向いたまま言う

「人前であまり泣かんほうがいいぜよ、興奮するやつがおるけんのぅ」


自分の顔に触れると確かに透明な雫が目頭についていた。
だから目の前が滲んでいたんだ、なんて今更のように気がついた


後ろを振り向くと手を上げて答える仁王君がいた
私は彼の後ろ姿を伺う程度に見て、家へと急ぐ。





家に帰ると携帯がメモリーカードを食い潰されながらもメールをキャッチしていた

『また喧嘩したちゃったよぅ(泣)』と絵文字を乱用されたメールを六十通キャッチしていた携帯を若干哀れに感じて直ぐ様その分のメールを消して、電源を消す。


このままいくならば、メール着信拒否したほうがいいんじゃないだろうか。なんて思いながら


ベットに転がって、その日は食べ物も食べずにぐったりと寝てしまった



  
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