笑わない人間は笑う人間を羨むが
笑う人間は笑わない人間を羨まない










パラドックス















吐き気がしていた。
頭の中をエコーする純粋な笑顔。
私の脳味噌はグチャグチャになりそうなぐらい回っていた


この立海であんな笑顔を出来る人がまだいただなんて、予想外にも程がある


口元を押さえる手が震えている、寒くないはずなのにガクガクと音を立てて震える手を私は気持ち悪いと一瞥した


植太麗子、彼女は壊れてると思ったのにまるで完璧だった
完璧な笑顔だった
卒がない、無さすぎる笑顔だった
天使のような
神様のような笑顔だった


白い壁に体を預けながら進む。ひんやりとしたその感覚がなんともいえないもので、頭を冷やすためと強く押し付けると頭の中にあった熱気が絞り取られるように霞んでいった。


「ん」

ん?


滲んで霞んでいた私の視界の中で何かが声を発した。白いなにか、いや、あれは白というよりも銀と呼ぶべきなのだろうか、目で見えているはずの光景は今なにもかもがグチャグチャでグラグラで、なにもかもがおかしい。


もしかしたら真っ黒の髪色かもしれない。色の識別能力さえ失っているだなんて、まったく笑えない壊れ方だ。
苦笑さえこぼすことが出来ず、私は焦点が合わない目でそれを見た。


黄色い、服のような何か
銀髪だと思われる髪
瞳はわからないが、パワーリストをつけていて
寒いだろうに半ズボン


「……仁王君かい?」
「………」


ふぅと、艶が掛かった色っぽい息がその人から吐き出される
当然のことながら彼は私に答えなかった
別に返されるとも思ってもいなかったから責める気にもならない、だいたい彼はこんな人だ


ああ、ちゃんとした認識力があって、ちゃんとした状態であれば久しぶりだと喜んでいただろうに
今はそんな気にさえならない


「コート上のペテン師さんがこんなコートから離れたところでなにをしているだい?」
「………」
「反応なしかい?弱ったね、今の私は視点があまりはっきりしていなくて君が感極まって泣いている姿が見れないよ」
「………」
「冗談にまで応答なしか。困ったなぁ」


モザイクのように霞みかがった視界の中で私は彼らしき人物を見る。
冷たい壁から手を離すとフラりと体が横に倒れる
すると横にも冷たい壁があった


横にいっても壁がある、という狭い構造を立海はしていないため、それは壁ではなく仁王君だと気づく
いつの間にやら、テレポーテーションを覚えた仁王君であった
いや、そんなことないのだけど



「………」
「……あれ、なんだい仁王君、君はそこにいたんだね」
「………」
「いつまで声を出さないつもりなの?」


息使いだけははっきりとしていて、仁王君がそこにいることは分かる。
冷たいその体は私と似たり寄ったりな体温だが、だが私よりは少しばかり冷たかった。

というか彼は部活動中ではないのだろうか
こんなところで、ゆったり、のんびりしていていいのだろうか


「…………」


そんなことを思っていると後ろにいきなり衝き倒され、尻餅をつかされた。
後ろから首のあたりに手を押し当てられて、首の回りを這われる。
そのまま首を絞められるのではないだろうか、それも仕方ないような気がする。

私は馬鹿馬鹿しいそんな話しを頭の中に巡らせる。実質問題私は彼に首を絞め殺されても文句などいえる立場にはいない。
でも彼はやらないか
そんな七めんどくさいものなんか
やるはずがないか





  
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