常勝立海

全国大会三連覇


中学、三年生の夏
全国大会優勝戦


立海大学付属中学校はその夏、優勝決戦で青春学園に負けた

まるで予定調和のような、その決戦、試合、勝負

それで、丸井ブン太はダブルスで大石・菊丸チームに負けてしまう。

そこから、彼の地獄が始まった。
いや、違う、この立海、この学校全体の地獄が始まったのだ。

学級崩壊に、無銭飲食、犯罪、虐め、不純異性交遊、学力の低下、喧嘩、校則違犯、先生への暴行、学校には爆弾まで仕掛けられる始末。


王者立海は壊滅した。
どうしようもないほどぐちゃぐちゃに
どうしようもないほど掻き回されて
どうすることもできないほど破滅した

破壊の限りで
破戒の限りで
恐怖の限りで
狂気の限りで

支配された


上など向けることなど出来ないままに
下しか向けることが出来ないままに


そして―――破壊活動が終わって、今、皆が皆、傷を抱えたまま、活動している。活動している――ように見える


私という、いついかなるときも壊れていた存在以外は











「ふーふふん、ふふふふーん」
「ご機嫌だねぇ、ブン太」
「分かるかよぃ?」
「うん、ブン太のことだからねぇ」
「ふふふーん」


丸井ブン太。彼もその破壊活動の被害者の一人だと言ったらなにか、なにかしら変わっていたのだろうか、なんて、意味のないことなのか

私は丸井君の頭を撫でる。
撫でると猫のように嬉しそうに笑うと彼は私にガムを差し出してきた。

有り難く頂くとしようか。私は彼から貰ったガムを取って噛む


「そういえば知っているかい、丸井君」
「うん?なんだよぃ」
「鳥というのは混血動物、つまるところ恒温動物でね。人間と同じくくりの中に入るんだけど」
「……?なんだよぃ?」
「鳥は人間より体温が高くてね。四十度近くに保たれているけれど、それを保てなくなったら、凍死するんだよ」
「それは、人間も同じなんだろぃ」
「うん、そうなんだけどね」


良い子良い子と頭を撫でる。
うーん、なんだか丸井君は理科とか国語とか嫌いそうだから知らないと思ってたけど知ってるんだな。

まあ、知っているならば話し易くていいのかな


「賢いブン太は知ってると思うけど、体がちいさくなると、大きさに比べて表面積が著しく大きくなる。つまりは、体温を保つために必要な熱を発生する体の大きさのわりに、熱が逃げていく面積が大き過ぎてね」
「………うーん?」


あ、やっぱり分からないか

「つまりは体表から逃げていく熱をたえず補わなくちゃいけない、そうじゃない限り体温は下がり、凍死する」
「……つまり?」
「食事は大切ってこと」


へえ?
とやっぱり分からないように相槌をうつ丸井君。

確かに鳥からいきなり食事の話しになるのは意味がわからないか


でも確かにそんな感じの資料が文章問題になっていたような気もする
立海の入学受験時にだっただろうか、たしか


「ブン太はいつもガムを持っているよね」
「なくなる時もあるぜぃ」
「たまにだよね、だいたいいつも噛んでいるし」
「そう言われればそうだな」
「だよね」
「でも、だったらなんなんだよぃ?」
「いや、凍死になりそうになったらブン太にすがればいいかと、そう思っただけだよ」
「ガムって食事に入るのかよぃ」
「そこは知らないけどね」


でも凍死なんて珍しいことなることもないか。
すがれないねぇ、丸井君。

「ブン太」
「うーん?」
「帰ろうか」
「そうだな」
「じゃあ、行こうか」


鳥は高い体温で生きている
私達、人間は鳥の体温の幾ばくか下の体温で生きている。鳥の体温は私達の熱と同じ
生き物によって生きる体温が違う


じゃあ、私はなんなのだろうか。
体温が三十度度を越さない私はなんなのだろうか。

私は、人間なのだろうか


………こう、いつも嘯いている私はなんなのだろうか


「帰るぜぃ、名前」

「はーい」







  
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