君を捨てたりはしないさ
ただ甘やかす必要もないだろう?
でも、疑われるのは気に食わないんだ

だから、私を疑わないでよ。お願いだから。










パラドックス















「柳となに話してたんだよぃ?」
「……丸井君」
「なに話してたんだ?」
「はぁ、また覗き見かい?」


柳君と別れてからすぐの大学部の人の少ない場所で、丸井ブン太は壁に寄りかかるようにして私を待っていた。私は口元を押さえる。彼が現れるのは今日に限ったことではない。だいたい彼と私は幼馴染みであるし、それに彼は私が変な動きをするとすぐに勘づく。
『元』恋人でもあるし、なんとも言えない関係ではあるけど


「柳の臭いがする」
「そりゃあ、さっきまで柳君と一緒にいたのだからねぇ。臭いぐらいするさ」


長いマフラーを巻きながら顔を埋めるようして私の首筋に顔を当ててクンクンと嗅ぐ、丸井君。犬みたいだ。


「ふぅん、誤魔化さないだなぁ」
「まぁね、君に誤魔化しはいらないだろ?」
「そりゃあ、そうだろぃ。俺に誤魔化しは効かねぇよ」


これでも、かなりの年月幼馴染みをやっているため、誤魔化すものなら殺す勢いで(本当に)迫ってくる、丸井君。


「でも、だからこそ聞くけどよぃ、俺はお前に『今なにしている?』ってメールを打ったよな」
「うん、そうだね。そして私は君に『友達と話しているよ』って打ったよね」


柳君とは、まあ恋人みたいなことやっているわけだけど、そんなこと言ったら丸井君が殺す勢いになってしまうため、一応。嘘を


「友達ってキスしあうような仲のことをいわないよなぁ」
「頬キスぐらいならば、外国じゃあ会う度にするよ」
「ここは外国じゃねぇよぃ」

丸井君の顔が厳しくなる。美人が怒るとカッコイイことになるのだが、私にしてみれば丸井君の顔が厳しくなるということはあまりにも不吉な感じがする


「でも、親愛の証としてやったんだからいいんじゃないのかな」
「じゃあ俺にもしてよぃ」

顔をあげて、なんだか唇にキスをねだるように目を閉じる丸井君。
どこかの恋愛映画を見ているような気分だった


「君ね」
「いいだろぃ?やってくれよぃ」
「……まさか、お酒飲んでる?」
「んなわけねぇじゃん」
「だよねぇ」


早く早くと、グイグイと顔を近付けてくる丸井君の頬に信愛のキスをする。


「うーん、なんだか私、キス魔みたいなキャラになりそうだな」
「いいじゃん、お前がキス魔になるんだったら俺、いくらでも受けてやるぜぃ」
「やだよ」

もう片方の頬もということなのだろう。片方も寄せてくるのでしてあげると一瞬にして顔が緩む。

あっ、やっぱり可愛い


「うぅーんもっと、もっと」
「なんだか今日は甘えたがりだね、どうしたの?」
「お前が足りない」
「なんだい、それ。おかしなこと言うんだね」
「本当のことなんだぜぃ」
「はいはい、可愛いね」

また、今度はおでこぐらいに唇をよせてする。柳君のように、拭いたりはしない。丸井君が嫌がるからだ
なんでも愛が感じられなくなるらしい、乙女乙女な思考である



「俺は可愛くないっての」
「そうなの?そうかな?」
「むーっ」
「ふふ、冗談だよ。丸井君は何時だって天才的で素敵でカッコイイよ」
「だろぃ?」


自慢気に鼻を伸ばす丸井君。やっぱり可愛いものだ、カッコイイっていう単語は柳君ぐらいにならないと使えないよな

私は丸井君が大好きな言葉を口にして、可愛いという思考を打ち消した


「うん、だから何時も君のこと思ってるよ」


ごめんね、嘘だけど


「俺も、ずっと思ってる。寝てるときも、起きてるときも、勉強しているときも、食べ物食べているときも、お前の――名前のことを思っているぜぃ。何時も、どんな時も」
「嬉しいよ、丸井君」


頬が緩んでいるであろう私に丸井君はにっこりとかわいらしいひまわりのような笑みを浮かべる。






  
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