彼女、つまりは輪道さんがこのクラスに馴染むまでそう時間はかからなかったように思えた。私の耳には二日目にして名前で呼びあっているように聞こえたからかもしれない。
そういえば、友達なんて久しくいなくて名前で呼んでくれる友達なんていなかったな。そう思うと私はどれだけ人見知りなのだろうかという議論がされないだろうが一応いっておくに、私に友達という概念はない。つまりは久しくなんて改造であり虚像であり、15歳にしてまだ私は【友達】という、獣道みたいな恐怖を覚えるものに到達したことはない。つまりゼロ、今までの一人として友達なんていなかった。
別に寂しくなかった。なぜかというと、【友達】じゃない人間がまわりにたくさんいたからだ。義務教育のたまものである。かなり馴れ馴れしいというか、ナンパでもしたいのかというほど軽々しく声をかけられることがあった。もちろん無視したのだが……、と、またまた、話がそれた。軌道修正。


つまりは彼女、輪道奏愛さんはものの3日程度でクラスメートみんなの顔を名前を覚えたらしい。記憶力がすごいのか。輪道さんがすごいのか、誉めように困るところだ、どうしよう、間を取って頭いいですね、インテリアはいってるぅ!とでも言ってこようかな。
絶対にしないけど


輪道さんはクラスに馴染んだあと、次に学校に馴染んだ。まるでテストの名前欄に名前を書くように絶対という様子で軽々とテニス部マネージャーの座を射止めたらしい。行動が早すぎるだろう、同じクラスだからミーハーじゃないだろうななんてわかるが、違う学年違うクラスからみたらただのミーハーになるよ、いいのかな?もしかしてそれも計算?もしかしたらそっちが本当?よくわからない限りだ。ちなみに彼女がいうには「全国大会に出ていたみんながかっこよかったから、手伝えないかなって思って」らしい。

ファンクラブの同級生に睨まれながら、向日葵のように笑う彼女に私は口を緩めた。これって私がなにかしなくても壊滅して堕落するんじゃないかな。そうなったら私もお仕舞いだ。
それだけは回避したいところ

ちなみに男子テニス部ファンクラブというのは三年の風紀委員長の女の子が仕切っている縦割のクラブもので、総合会長、総合副会長、総合書記、そしてその下にテニス部メンバー個別の会長、副会長などがいる、熱狂的なファンクラブだ。まだ、立海附属中学よりはましらしいが、かなりの熾烈な女の戦いが繰り広げられている。そのせいでファンクラブは苛め禁止令というのをクラブ活動にいれるということを条件にお触れがしかれたらしい、なんでも袋叩きにした女が本格的に死にそうになったらしい。相手をさせられた私にとっても笑い事じゃない。そこらへんは私も嬉しく思っている始末だ。

今では男子テニス部ファンクラブはれっきとしたクラブ活動のなかに入っているため陰湿な苛め以外はほとんどなく、そう思うと輪道さんというのはつくづく運がある人のようだ。マネージャーになれたことといい、マネージャーの仕事が大会後のため少ないことといい、ファンクラブが過激な行動を取れなくなったことといい、まるで照らし合わせたようなご都合の主義。夢でいったことが全て現実になっている感じ

じゃあつまりは、この設定は誰かのなにかのどれかなのだろうか

そう考えるとぶっ壊すときの快感がありそうで思わず肩を震えさせた。











「というわけなんだよね、財前くん。楽しそうだから君も彼女のこと好きになってみなよ」

「嫌ッスよ」

ピアスを五個つけているらしいその耳に口を寄せながら私はそう呟いた。暇だったので呟いた言葉だったのだが、それにしてはノリが悪く返された。どうやら機嫌がよくないらしい。
彼が機嫌がよくないのはいつものことだったけど、今日は特に不機嫌だったわけではなく、私の呟きだけで眉を潜めたところを見ると、ははん、なるほど、このピアスくんはどうやら輪道さんのことをあまり好いてはいないらしい。
そりゃあいきなりきた、外からの余所者だ、警戒心があるのは普通だろう。なんだか恋愛ゲームの設定にありがちの話だ。なんだか気に入らない。自分達の築いてきたものが壊れそうで怖い、みたいなそんな感じ。
この生意気な後輩殿がそう思っているのかと思うだけで口の中に蜜がはいってくるような気がした。
毒の蜜が


ちなみに彼と私の関係は布団を貸し借りした仲。
なんとも微妙な仲でである
家をしょっちゅう飛び出していくこの子に布団を持ってきて公園で寝ろというのが私の仕事。
家は財前君と隣同士であり、私と財前君以外に家もあまり建っていない。御近所付き合いはかなり私にとっても大切なので、よくして貰っているため悪くして返す、日常茶飯事だ。

そうしたらいつの間にかこの不良ピアス殿は私になついてきたというか、擦りよっというか、そんな感じで、今でも御近所付き合いは大切にしているところである。



「なに?輪道さんが嫌いなのかい?財前君ともあろうものが?」

「いや、あいつ生理的に無理なんで」

「えぇー」

「無理なんッスよ。あいつ、マジで。なんなんですかね、あいつ、見てるだけでムカつくんッスわ」

「それは恋のはじまりっていうや」

「つじゃないッスよ。絶対」

財前くんの眉はまた皺をつくる。怖いものだねぇ、いやはや、不良かい君は。私みたいな貧乏にお金をねだってもなにもあげれないよ?なんて頭の中で考えていると財前君が目の前で大きくため息付く。参っているみたいだねぇ。御愁傷様だ、力にはなれないだろうし。

「白石先輩、アイツのこと名前で呼び出したんですよ、それも呼び捨てで」

「奏愛って?おやおや、珍しい限りだねぇ、あの天才が特例の女を呼び出すなんて。これはこれはあれだねぇ、白石君専用のファンクラブの隊長が黙っちゃいないだろうねえ。あはは、楽しそうだな、煽ってこよっと」

「……あと、忍足先輩がなんだかあいつみてそわそわしはじめて、話しかけられると真っ赤になってるんッスよ。気持ちを悪いです」

「それを私に言われてもねえ、忍足君にそれは言ってよ。忍足君が気持ち悪いのは私じゃあ扱えきれないから。でも、珍しいよね。こないだフラれてからもう恋なんてしない!とか大洞吹いていたのに」

そう考えると、人気の奴らみんなに好かれはじめているってことか。
財前君が魔の手にかかるのも、もう時間の猶予もないってわけだ。
こうしていられるのも今日で終わりだったりして。

そう思うと清々しいような、寂しいような、そんな感じがするな。

いつも向けられていた、あの嫉妬の眼差しが消えるのは嬉しいのだけどね。


他にも、財前君はレギュラー陣が変わっていっていると一人ずつこと細かく、愚痴のように言い聞かせられて、ブスッとした顔をされたまま、私にあいつ消えませんかね?なんて怖いことを聞いてきた。そんな、いじめ駄目ってだしたの君たちなのに破る気なのかな。私はそれでもいいけど。
なんて思ってると、噂の輪道さんが私の机にやってきた。どうやら、財前君にようがあるらしい。彼女は女の子達に後ろでヒソヒソ言われながらも、財前君に喋りかける。財前君の顔を見ると眉間に皺を寄せて、般若のようになっていた。立海の切原君という子にそっくりだった。そのうち目が充血しはじめるのではないかとヒヤヒヤものだ。

「あ、ごめんね。財前くん、これ蔵ノ介から」

「はあ?」

聞き方が真面目に不良だったのは置いとくとしても、『蔵ノ介』ねえ。

蔵ノ介と言えば白石蔵ノ介だ。白石君も呼び捨てにして、輪道さんからも呼び捨てになんて、この子勇気あるを通りこして、馬鹿なんじゃないのかな?蔵ノ助と言った瞬間に後ろの女の子達がキラッと目を光らせた。そして私からしか見えないが、輪道さんの後ろ姿をこれでもかというほど睨んでいる。
私睨んでいるようにも見えるけどね






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