作り作る


自分自身を変えられる人間はそう存在しない。結局のところ人間は決められたレールの上を走るしかないのだ。自己の選択などと思ってもそれは運命の歯車に踊らされているだけ。だからこそ滑稽で面白いというが、そうだろうか。操り人形は悲しくはないだろうか。運命の操り人形は虚しくはないだろうか。
悲劇だと感じるならば声高々に叫ぶといい。私は神なんかに、運命なんかに縛られないと。
でもそう言ったことさえ運命なのだとしたら報われないね。
いったい運命とはなんだろうか。これも運命の歯車の中に入っているとしたら恨むよ、神様。
動き出すといってもやることは地味だ。地味な作業ほどめんどくさいものはないが、やることに意味はある。名前を探してふうと息をつく。まだ朝練中だろう。靴はなく上靴だけだった。私が動かなくてはならないとは人生は嫌なものばかりだと嘆いていると、彼女はそこにいた。
朝練をしていたはずなのに、なぜ? 問いかけようとしたとき、彼女ーーーー輪道さんが表情を消した。ゾッとするほど可愛いのに、生気は抜け切っている。愛玩用の人形みたいだ。

「なにを、やっているの?」
「…………」

関係ない。そういえばいいのに、病的に表情を消した顔は下手なホラー映画よりも怖い。だが、そんなことを気にするような人間でもない。気を取られたのは一瞬ですぐに笑みを貼り付ける。

「関係ないよね?」
「だってそこ、蔵ノ介の靴箱だよ?」
「君は白石君の恋人か何かなのかな? そうだったら関係あるけれど、ないんだったら見逃してよ」

暗にこれ以上関わるなと言っているのに、彼女は体をグンと前のめりにさせた。

「私、マネージャーだよ?」
「選手の私生活にも口出す権利があるって? それはいささか行きすぎなんじゃないかな」

たしなめるように言うと黙り込まれた。何がいったい目的なのだろう。白石君を私に取られると思って嫌になったとか? それはありえない可能性なのだけど、杞憂なのだけど。

「でも、友達でもあるから」
「なら、なおさら遠慮してくれないかな。私が伝えたいことは彼の友達に伝えたいことではないのだから」

彼女の横を通り過ぎて、ため息を吐く。ビクンと肩が揺れるのが見えた。無表情が溶けて、無防備に晒された顔には絶望を湛えていた。
その姿に少しだけ疑問を抱きつつ、クラスへと向かう。いつもと同じ日常が始まるかと思うと決意改たにしたのが嘘みたいだった。非日常と日常の境目は案外曖昧で分からないのかもしれない。
まあ、与太話もいいところだ。席につき、いつもと同じような意味のない、中身のない授業をたんたんと受けた。




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テーマ「人外ファンタジー」
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