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悲しいことに君はダウトだ
IQ200の天才といえばこの四天王寺では一人しかいない。
金色小春
財前君もお世話になっているとかいないとかでよく、先輩ら、キモいんっすよー。と私に言ってくる。言ってくれたって私はどうすることも出来ないから、財前君はもしかしたら誰かに構って欲しい構ってちゃんなのかもしれないと一瞬頭の中で変換したことがあったが、財前君がデレデレだったらそれはそれで怖いため自重した。
ともかく、そんな天才さんの話しは私も聞き及んでいる限りで、かなり凄いんだと聞いた。それに騒がしい人だとも。
だから彼が(いや、彼女なのか?)図書室という神聖で静かな場所に居るとは全然思わなかった。いやはや、偏見とは怖いもので、私はその姿を見付けたときに金色小春の髪型を真似している楽しい人だと勝手に思い込んでしまい、特にそれといって人がいない、四時間目の始まりのチャイムと共に彼の斜め後ろの窓側の席に座ってしまった。
図書室でサボりというのも珍しいな、やっぱり今日テニス部のあの喚声と歓声を直接近くで聞いたせいなのだろうかと一時間目から何故か気だるい脳味噌で思いながら、本棚をボーと見ておくと、金色君は本を少しずらして私を見る。それに気がつかないように振る舞ってみせると金色君は困ったように本をパタンと閉じた。
「アンタ〜、何やってんの?」
裏声なのだろうか、その声は男性としてはかなり高く、それでいてしゃべり方も女性を彷彿とさせる柔らかいものだった。財前君がいうように確かになにを越えちゃっている
「なに?なにかやっているように見えるかい?」
私は皮肉を込めて、彼をみらずに答えた
「見えへんからいってんのよ。もう四時間目のチャイム鳴っちゃったわよ、はよ戻りなさい」
君は私のお母さんか。と思わなくもなかったが、さすがに初対面の人に言うのも気がひける、言葉には出さなかった。
「君だって、四時間目の授業始まってしまったよ?いいのかい?」
「アタシは大丈夫よ、それよりもアンタよ、アンタ」
「私も大丈夫だよ、それより君だよ、君」
同じような台詞でオオム返しのように返してやると、金色君は眼鏡をクイッと上げて、ヤレヤレと首を振る。
「アンタ、怒られても知らんで」
「怒られたときは怒られたときさ、言い訳ぐらい考えているよ」
「……もぅ、まったく」
どうやら金色君という人はかなりのお節介でそれでいて心配性の人間らしい。まぁ、なんでも頭で考える人は、メンタル面もかなり発達して大人っぽいらしいしねぇ。
それにしても、今日ただ単に一緒にサボりになった人のためにこんなに言えるだなんて、なんて心が優しいんだろうか。私にもその優しさを分けて欲しい限りだ。言ってみただけだが。
「本当に知らんで?」
「あはは、楽しいことを言うんだね。私は君になにを知らんでと言われるほどの何かをしたのかい?」
「……ホンマにアンタなぁ」
「ふふふ、冗談だよ、言ってみただけだ。ねぇ君、もしかしてさ、金色小春?」
「い、いきなりなによ?」
「別に。なんとなくだよ」
そう笑ってみせると神社の中の木に藁人形でも見たかのように私を見る。とはいったもののそんな珍しいモノを見た人の顔などそうそう拝めるものではないから妄想なのだけれども。
「で?どうなの?君が金色小春さん?」
「そ、そうよう、アタシが金色小春」
「そう」
私はこないだからなかなかにテニス部の彼らとの縁があるらしい。白石君と一方的にとはいえ挨拶を交わし、間近で忍足君を見て、そして今日金色君に会うことになるとは。
財前君パワーなのか、それとも輪道さんパワーなのか、どちらにしろ嫌すぎるが。
「ちなみに私の名前は輪道奏愛だよ」
にっこにこ笑ながら言うと彼は眼鏡をクイッと持ち上げる、そして親指を突き立てて、そしてその天を向いているその親指を下に落として
「ダウト」
と言った。
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