悩み悩む
あれを恐怖というのだろうか
それの子は自らを犠牲にしてまで、笑いを追求しているように見えた。
いかれる人間と言ってもいいんやろうか
掴んでいたはずの手を見る、冷たい皮膚に触っていたその手がまるで氷に突っ込んでいたかのように震えていた。震える手を掴むと、やんわりとした片手の熱が伝わる
「なにやってんねん、オサムちゃん」
「おう、忍足かどうした?」
「プリントこれ裏表真っ白やん、プリント貰いにきたで。オサムちゃん大丈夫か?顔色悪いで」
「おん?ほんまか、昼飯食べてへんからやろか」
「なんやオサムちゃん、お昼さえ買うお金なくなったん?教師やろ、もうちょっと計画してから使いよ」
「はは、ほんまやね」
――忍足が前におるいうのに、目の前におるんがさっきの子のように思えるわ
鋭い目が忍足と重ならんが、何故か、どこか似ている。それは若いという共通点なのかもしれない。
そういうのじゃない確率も高いだろう
「若いは本当に怖いな」
「うーん?なんか言うたか?オサムちゃん」
「いいや、なんも言ってないわ。つうか勝手にプリントの山に触んなや。崩れるやろが」
「ええやん、オサムちゃんどうせプリントどっかやったんやろ。探してやっとんねん。逆に感心して欲しいぐらいやねん」
「ほんま、身勝手やな。お前らは」
「オサムちゃんだけには言われたくないわ」
「あはは」
「笑うとこちゃうわ」
忍足は染め上がった髪を手でかきあげる。こいつ、元は青色系の髪質やったけ? よう覚えとらんわ。
「そういや新人マネージャー、仕事出来ないって噂流れとるらしいで」
「はあ?そうなん?つうかなんでオサムちゃんの方に俺より先に情報が回るんねんおかしいやろ」
「おれ、生徒に愛されとるからなー」
「嘘臭いっちゅう話や」
「うるさいわ」
彼女が疑問に思っていたことを聞いたのはただの当て付けのようなもの。それで気が紛れるような気がしたからだ。
「で、本当のところどうなん?」
「確かにいっつもテニスコートベンチで見とるけど、水とかはくれるんよ。仕事しとらんとは言えないんやないん?」
「………」
「…?どうしたん。オサムちゃん」
「なあ、白石はそれみてなんか言わんかったか?」
「いや、なんも言ってないやろ。言ってたら奏愛はマネージャーから下ろされとるやろ、流石にな」
無駄が嫌いなうちの部長は絶対に部活に私情を持ち込まん。それやのに、マネージャーの仕事をしとらんマネージャーに何故なんにも言わん?
「どうしたん?オサムちゃん」
「い、いや、なんでもないわ。もうすぐ掃除やぞ、はよ行き」
「お、おん?」
おかしい
おかしいおかしい
なんや、この違和感は
なんなんや、この偽造感は
触れていた指先から毒のように伝わってくる冷たいという感覚
片手の温かさまで搾り取るようなその温度に俺は違和感を植え付けられた
(20110117/冷たさとは違うなにかが)
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