続いて続く
とりあえずアドレスを交換して、なにかあったらメールでということで、私は委員会室を出た。
こんなに簡単にいくだなんて、びっくりを通りこして、不気味だ。こんなんでいいのかな、だなんて考えながら、私は渡り廊下を渡って、自分の教室の前を通って(財前君がかなり楽しそうだった、やっぱりかと思った)階段を降りて、職員室に行く。職員室の中に入るとテニス部顧問のオサムさんがいて、私は彼に近寄りながらポケットの中に入っている携帯の電池を切った。そしてポケットの中に同じくあった、度なしレンズをかける
職員室にはオサムさんの他たくさん人がいて、しかしながら生徒の姿は見受けられなかった。
とりあえず、情報をとっとかないとね。
じゃなければ、私の方が切られる可能性が高い。
情報を制するものは、戦を制するといったものか。
「オサムさん」
「うーん?なんや、えっと」
「輪道いいます」
本名なんて名乗るわけがない、私はちょうどいい人の名前を使ってみた
私は普段大阪弁など使わないから、使うとちょうどいい目眩ましになる
「そか、……?輪道、どっかで聞き覚えあるな」
「気のせいやないですか?」
「そやな、でなんや輪道」
「実はですね、うちのクラスの白石君がこの頃イライラしてますねん。なんや、テニス部でなんかあった、言ってるんですよ。席隣やから、めちゃめちゃうざいんですわ、なんかテニス部であったんですか?」
「おん、確か新しいマネージャーが入ったんや。なんや白石うるさしとったんかすまんな」
「いえいえ、それはええんです。でもなんや、白石君イライライライラしとるんですよ。そのマネージャーさんのせいなんやろか?」
「それは俺も知らんよ。だけど、この頃テニス部いえばそんぐらいしかないやろ。もう全国大会も終わってしもたしな」
「そうやったですね、そうや全国大会ベスト4入りおめでとうございます」
「俺がやったんやない、言うんやったらテニス部の奴らにいいよ」
「でも、監督したのは先生ですやろ。言うんは当たり前ですわ。で、なんですけど、なんや白石君がいっとったんやけど、新人マネージャー珍しい入部の仕方した聞いたで。どない入部の仕方したん?」
「なんや、それ聞きにきたんか?野次馬ぽいで」
「しょうがないやろ、テニス部のみんなカッコイイやん、気になるんよ。なあ、教えてな、オサムさん」
「しゃあないな、でも、そんな珍しい入部の仕方やなかったで。そうやな、確か白石がつれてきてそのまま流れでやったはずや。あー、でもあれやったな、最初は一氏達が反発しおって、白石が殴れたんやったわ、そのマネージャーをかばってな。でも二時間ぐらいしたらコロッと心かわりしたようになって事なきを得たんやけど、まあある意味珍しい入部の仕方やろな」
「なんや、そんなんか」
「おもろなかったか?」
「あんま珍しくないやん。楽しくないわ、もうちょっと面白いのやとおもっとったんやけどな」
「あはは、すまんな、アイツらに言うとくわ、次からは面白いくせいてな」
「そうやね。お願いしますわ、あ、あとな、そのマネージャーなんや仕事出来ないって専らの噂なんやけどほんまなん?」
「聞かれたくないところグイグイくるな、輪道は」
「あはは、いいやろ、ノリやノリ。答えてーな」
「つってもなあ、俺は監督やし、マネージャーなんてあんま見とらんよ、そういうんのはファンクラブかレギュラーに聞いたほうがええやろ」
「なんや使えんな、オサムさんは。まあええわ、じゃあ、この頃白石君達変わったことない?」
「なんでや?」
「やって、新人マネージャーさん美人らしいやん。なんやうわついた気分になっているやつおるんやないかって思っただけや」
「そやね。白石と忍足はあんま変わらんと思うで、でも財前はなんやイライラしよるけどな。その他はあんまテニスに集中出来んって言っとったな、青春やな」
財前君は確か、白石君と忍足君の行動や言動がおかしいと言っていたのだが、監督からしてみればいつもの通り、なのか。だとしたとしたのならば、財前君の間違いか、監督の認識の違いか、それともどちらでもないのか。それはあとで考えるとするか
「青春やね、ウチもしたいわ。おっと、なんやもうそろそろ掃除やな。もうちょっと聞きたいことあったんやけど、それはまたいうことで。ありがとうな、オサムさん」
「おん、また来てな、待ってるで」
また、来るか。もうこないかも知れないんですけどね。なんて、いえるわけない
「と、その前にや。先生に嘘はいかんやないん?名無しちゃん」
手を捕まれる。ギリギリと言いそうなぐらいの力のいれようだ。今まで信じれなかったが、この人の腕力は確かにテニス部レベルだ。テニス部の監督、なんだねえ。
「……なんのことですか?先生」
背中を見せていたため、首だけひねって、彼を見る。ギラギラとした目が帽子のなかから見える。おや、男前だね
「大人舐めると痛い目会うで名無しちゃん。輪道いうたらその新人マネージャーやろ。珍しい苗字や、この学校にはもう一人そんな珍しい苗字はおらん。それに白石の隣は女子やない、男子や。もう一個隣は窓際やから絶対に白石の隣にお前さんはおらんな」
「…へぇ」
観察力はかなりあるみたいだね。流石、あのテニス部の監督といったところか
尋常じゃない
「嘘つきは泥棒の始まりなんやよ、名無しちゃん」
ギラギラした目を薄くして微笑むオサムさん。
ギリギリと捕まえれる手に力がはいる。痛い、痛い、痛いって。
ああ、でも
「知ってます?先生」
「……なんや、っ!」
ゴリッと肩から音がする。私の肩が外れた音だ、瞬間――私の手を持っていたオサムさんの手がびっくりして離れる。離れた瞬間、私の手がぶらりとして、そしてまたゴリッと音を鳴らす、今度は嵌める音だ。
「嘘つきはどんなことがあったとしても嘘を突き通すんがポリシーってやつなんよ。だから私は白石君の隣の輪道さんやねん、少しだけミーハーのな。それじゃあ、また来るわ、オサムさん」
後ろで小さく、そう言うんはワガママとか、意地っ張りっていうんや。と自信なさげに呟かれた。
そんなこと、もちろん知ってるよ。
つかまれていたほうの手を擦ると赤くなっていた。どれだけ強く握っていたんだろうあの人、びっくりだ
職員室を出ると、すれ違うように忍足君が入っていった。ちらりとこちらを見られたが興味無さげに顔をそらされる。
輪道さんにぞっこんなのかなこの人も。なんて思うと、すれ違うときに笑いそうになった。いけないいけない、ダメだダメだ、まだまだ私は裏方仕事を、いやいや、いつまでも裏方仕事をしなくちゃいけないんだから。
なんて、楽しいこと考えながら、私は階段を上がった
(嘘つきは進行する/20110117)
- 6 -
[*前] | [次#]