Giochiamo!(仮).
紫色の生き物に乗り(というか掴まり)俺は空を飛んでいる。本当に飛ぶとは思わなかった。地面が遠い。木が小さい。風が気持ちいい。恐怖はもう殆どなかった。
「お前すげえな、空飛べるなんて」 「……」 「無視かー。あ、あれが忍術学園だ」 「……ガウ」 「……え、スピード上げるのか?待て待て落ちる!」 「……(こいつ言葉がわかるのか?)」
ぐんっと上がったスピードに思わず首にしがみついた。でも腕に抱えている彼女には負担を掛けまいとしているのがわかって、この関係は主従とかじゃないのかも、と頭の隅でそう感じた。忍術学園の上空までくると、生き物はぐるりと旋回した。
「じゃああの門の前に下りてくれ。そこからは俺が連れていくから」 「……」 「わかった敷地内に下りてくれ」
どうやら彼女を離すつもりはないらしい。敷地内に下りればまあ楽か。医務室の前を指すと、ふわりと飛んでから着地した。地に着く瞬間地鳴りのような凄まじい音がしたが今は気にしないことにしよう。
「新野先生!」
今はこっちが優先だ。
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善法寺先輩の処置が迅速だったお陰で毒は引いて来ているらしい。傷も跡は残ってしまうらしいが内は無事だということだ。解毒薬の副作用か彼女は熱を出していて、苦しげに呼吸を繰り返している。あとは熱が下がれば問題ないらしい。彼女のことを新野先生に説明していると、寝かせるために外した腰紐(少し違うみたいだけど)に付いていた球体から、ポンポンという音と共に五つの赤い光が飛び出した。
「うわっ」 「キキーッ」 「クォー…!」 「ルル!」
でかいのが医務室の外に三体、人と同じ位のが三体。でかい蛇みたいなのとか蛙に花が咲いてるのとか猿とか見たこともないやつらが飛び出した。新野先生は口をぱくぱくしてるし、俺も変な顔をしてるに違いない。
「キュル」 『うん。人間、僕が浅緑兄の通訳するから聞いてね』 「お、おう」 『この度は、我等の主の命を救って頂いたこと、心より感謝する。我等は人なきものであるが、主が目覚めるまで置いては貰えないだろうか。恩は返す』 「いや、いるのは構わないぜ。まあその判断をするのは学園長だけど…」 『ここの責任者か?』 「ああ」 『是非お会いしたい。案内しては貰えないか』 「い、いいと思うけど…」
ちらりと他の奴らを見る。猿と蛇みたいなのは泣きながら鳴いている。大丈夫なのか、という意味でもう一度緑を見ると伝わったのか、頷いた。
「キュルル」 「キキ…」 「クォーン…」 『大丈夫だよ。紫苑兄も葵兄もいるから何があっても心配ないよ』 「……あのずっとこっちを睨んでくる奴らか?」 『うん。マスターが大好きだからね。もちろん僕らはみんな、マスターがいなきゃいけないんだ』 「そうか…。そのマスターは、本当に大切なんだな」 『うん!』
つい頭を撫でてしまった。思った以上に毛並みがよくふわふわとしていた。そいつは驚いてびくりと震えたが、そんなに大きな抵抗は見せなかった。
「キュル」 『行きましょうか』 「ああ」
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合同実習も終わり、忍術学園に戻ってきたのは、日がすっかり落ち暗くなってからだった。
「腹減ったな…」 「その前に湯浴みだろうが」 「わーってるよ」
なぜこいつと共に湯浴みを。でも今は喧嘩をするより湯を浴びたかった。ふと、医務室の前に巨大な何かがいるのが見えた。それはこいつも気付いたらしい。
「おい、文次郎…」 「…ああ」
気配を消し近づく。近づけばだんだんとその姿がはっきり見えてきた。それは見たこともないでかい生き物だった。思わず後退ってしまった。いかん、これでは忍者失格だ。あれは忍術学園の脅威になるやもしれん。消さなければ、そう思い返し忘れていた手裏剣を取り出し、花の咲いた蛙のようなものに投げつけた。
「……」
が、それはそいつから伸びた蔓のようなものに弾かれてしまった。だがそいつらはこちらに背を向けたまま動かない。相手をしてられないとでも言われているような気がした。今度は食満が苦無を投げたが、羽の生えたやつが一度羽を動かしただけで苦無は吹き飛んだ。あれだけの力があるなど、余計に放っては置けん。
「食満!」 「命令すんな!」
飛び出す。が、目も向けられないまま弾かれ飛ばされてしまった。こうして俺達の一方的な攻撃は朝まで続いた。
100912
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