Giochiamo!(仮).
謎の生き物を従えた女性はちらりとこちらを見てから真っすぐに歩いてきた。大怪我を負っている生き物の前に行き膝を立てた。彼(でいいのかわからないけど)は警戒していて威嚇している。今にも切り掛かりそうだった。それでも彼女は臆することなく背中に背負っていた物を下ろし、中から何かを取り出した。
「大丈夫、わたしは君の味方だよ。君を助けに来たの」
そう言いながら彼女は何かを傷に吹き掛けた。生き物は唸っているが、まるで言葉がわかるかのように返事をしている。
「穴に落ちた?やっぱり。うん、戻りたいでしょ?大丈夫、そのために来たの」 「シャ…」 「はは、よく言われる」 「キュルル」 「シャ…!?」 「浅緑、恐がってるからやめなさい」
竹谷と顔を見合わせた。僕達から見たら変な光景だ。でも僕達を無視して手際よく手当てしていく彼女に思わず見惚れてしまった。いつの間にか緑の生き物は警戒を解いている。
「さて、じゃあボールに入ってね。話によると結構快適らしいよ」 「シャア」 「はいよっと」
彼女が丸い何かを投げると、緑の生き物は赤い光に包まれて消えてしまった。驚きで言葉も出ない。彼女はそれを拾い上げて入れ物にしまうと、こちらに歩いてきた。つい反射で身構える。
「さっきは、彼を助けてくれてありがとう。彼も感謝してた」 「………あんた、何者なんだ?」 「何者…かあ。一般人?」 「いや一般人がそんな見たこともない生き物を従えるか。何なんだ、お前」 「うーん…何だろうな。何だろうね」 「キュル…」 「まあいいや」
いやよくねえよ、というツッコミが聞こえなかった所、竹谷は控えておいたらしい。一応命の恩人だし。彼女は腰紐に提げていた球を取り出し、隣に立っていた生き物に向けた。するとさっきと同じように赤くなって消えてしまった。
「な…!?」 「き、消えた!?」 「さっきはありがとう。わたしも助かった。だからばいばい」 「ちょ、待て!」
竹谷が彼女の小袖の袖をぐいっと引くと、彼女は案の定竹谷側にぐらりと傾いた。その時、何かが彼女の腕を裂いた。矢だ。
「い…っ!?」 「矢だと!?」 「竹谷、あそこだ!」
矢が飛んできた方向にプロ忍が見えた。さっきの仲間か。彼女は血の出る左腕を押さえ何とか痛みに耐えている。早く止血しなければ。
「…っ、まだ追っ手がいたなんて…」「え…」 「青藍!」
突然彼女の腰元から飛び出したのは、藍色の生き物だった。彼女は他にも従えているのか。
「青藍、近くにいる、あいつと同じ奴らを、気絶、させてきて。君なら、できるよね…っ」 「ル!」
返事をするが早いか、彼は目を瞑り駆けていった。すると、周りから何人かの悲鳴が聞こえてからすぐに帰ってきた。もしかして、今ので全部倒してきたの?
「ルル!」 「あ!怪我!」
見ると、傷自体は深くないがどうやら即効性のある毒が塗られていたらしい。懐から竹筒と粉末にした毒消しの薬草を取り出し、彼女に飲ませた。意識はあるが朦朧としていて焦点が定まっていない。素早く止血をし、傷口に触れないよう血と毒を拭いた。この症状の出る毒は即効性はあっても、解毒薬を飲ませてしまえば治まる。手当てが終わったのを見計らってか、藍色の生き物は彼女の怪我をしていない方の手を取った。
「一先ずこれで大丈夫。あとは安静にしとかなきゃ。竹谷、忍術学園に連れていこう」 「え、でも…」 「彼女は命の恩人だよ。その人を助けなくてどうするんだ」 「…っ、はい」
じゃあ俺が、と竹谷が彼女を抱えようとすると、また彼女の腰元から何かが飛び出す。今度は紫色で、大きい。
「ガウ…」 「で、かー…」 『手を離せ、だって』 「は、話した!?」 『僕は波動を使って人間と会話ができるんだ。マスターを助けてくれてありがとうございました。あとは安静にしてればいいんだよね?』 「そ、そうだけど…」
今度は生き物同士で話しているから会話はわからない。この生き物達は人間の言葉がわかるらしい。つくづく謎だ。
『悪いんだけど、案内してもらえないかな』 「え、それは、まあ…」 『よかった。紫苑兄、いいよね?』 「ガウウ」 『じゃあ背中に乗ってね』
言葉を話す彼はまた消えた。紫苑と呼ばれた生き物は彼女を横抱きに抱え、僕達に背中を向けた。乗れと。
「た、竹谷どうする?」 「どうするも何も…」 「……ガウウウ…」 「は、早くしろって言ってるみたいですね…」 「そうだね…。じ、じゃあどちらかが先生に伝えに行こう。どちらかが案内するんだ」 「そうですね。じゃあ俺が案内します」 「わかった。僕は先生に伝えてに行くよ」
竹谷が生き物に恐る恐る乗ると、それは翼を大きく羽ばたかせ、助走をつけてから飛んで行った。た、竹谷すごいな…。
「じゃなかった!僕も先生に…うわっ」
穴に落ちた。どうやら道程は遠いらしい。
100911
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