Giochiamo!(仮).
がさがさと周りに気を配りながら草を分けて進む。幸い俺達以外の人の気配はしない。今は六年生との合同実習の最中で、二人組で他のペアが持つ色違いの腰紐を盗る、というものだった。時間制限は日が沈むまで。最下位は明日の湯殿掃除。これは是非とも回避したいところだが、俺達は未だに一つも腰紐を奪えていない。それどころか誰にも会っていない。作戦も練ったのに。不運が移ったか、と僅か後ろを歩くペアの先輩を見遣る。彼を当てた時点で既に不運なのかもしれないが。
「……善法寺先輩、そろそろ日が沈みます」 「……そうだね」 「……最下位ですかね」 「……そうだね」 「……戻りますか」 「……そうだね」
仕方ない。腹を括ろう。そう思い踵を返した時だった。善法寺先輩が何かに気付いたようで俺の名前を呼ぶ。
「竹谷…あれ、」 「え?」
善法寺先輩が指した方を見ると、どこかの忍者がいた。木の陰になっていてよく見えないが、プロ忍が何かを相手にしているようだ。ここは気づかれない内に去った方がいい。身を低くしてあちらを気にしながら移動する。すると叫んでいるのか、声が聞こえた。
「くそっ、大人しくしやがれっ!」「シャアアア!!」 「くっ!この化け物が…!」
化け物?そろりと頭を上げて見ると、俺は思わず息が詰まった。見たこともない緑色の生き物が忍者と対峙していたのだ。腕は刃物のようで恐ろしいが、その生き物は酷く怪我をしていて、今にも倒れそうだった。
「な、なんだあれ…!」 「善法寺先輩…」 「竹谷、見たことあるかい?」 「いえ…あんなの見たこともありません。でも…」 「……酷いね」
同感だった。抵抗はしてるが、躱しきれていない攻撃が次々に怪我を作っている。生き物に対してあんな扱いをするのは、あれが得体の知れないものでも許せなかった。
「すみません先輩、俺行ってきます」 「ちょ、竹谷!?」
素早く飛び出し、振り下ろされていた苦無を苦無で受け止めた。
「……何をする、餓鬼」 「生き物をぞんざいに扱うのは見逃せねえからだ」 「邪魔をするな」
キィン、と苦無が弾かれる。力の差は歴然だった。ヤバい、と思った時、目の前が緑色になった。
「な…っ!?」
さっきの生き物だ。怪我だらけで立つのも辛そうなのに、苦無を受け止めている。
「シャアア…ッ」 「お前…」
後ろから手裏剣が飛んで来る。どうやら他にもいたらしい。苦無で弾くが、二人も相手にできない。
「竹谷!」 「先輩!」
隣に現れたのは善法寺先輩だ。どうやらもう一人いて、その相手をしていたらしく、相手は運よく罠に掛かってくれたから先輩は無傷らしい(今全ての運を使い果たしたんじゃないか?)。でも未だに不利なのには変わりない。じりじりと詰められる距離。
「浅緑、サイコキネシス」
この場には不釣り合いな女の声が聞こえたと思ったら、プロ忍の一人の身体が浮き、そのまま木に飛んでいき身体を打ち付けた。その場にいた全員がわけもわからずそちらを見ていると、また同じ声が聞こえまた一人同じように身体を打ち付けて気絶した。
「おい、お前らどうした!」 「よそ見しない方がいいよ」 「!?」
キイン。素早く反応した彼は流石プロ忍だ。また、目の前にいるのとは違うが、緑と白の生き物が現れた。腕(肘か?)が伸びて刀のようになっている。人型だが、人には見えなかった。
「浅緑、リーフブレード」 「キュアッ」
反対側の腕が光り、プロ忍を吹っ飛ばした。彼は気絶したみたいで動かなくなった。俺達も突然現れたそいつに動くことができない。すると、がさがさと物音がし、そちらを見ると普通の女が歩いてきた。一般人が何でこんな所に、と制止の声をかける前に彼女が口を開いた。
「ご苦労様、浅緑」 「キュル」 「な…!?」
プロ忍を吹っ飛ばした生き物は女の側に素早く近寄り頭を下げた。彼女はそいつの頭を撫でる。これが彼女との出逢いだった。
100911
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