俺の姉.
漸く立って歩けるようになり、単語のみの言葉も話せるようになった。一番始めに発した言葉が「ナルト」だったなんてわたしでも信じられない。こいつラーメンでも食いたいのかとか言われたし。ていうかよくはっきりとナルトって言えたなわたし。舌が回らない事がこんなに悔しいとは思わなかった。
「だだん、おそと、いきたい」 「何だい散歩に行きたいのかい?」 「いきたい!」
歩けるようになったからといって行動範囲は依然として下宿所内に限られていた。あまり外に連れていってもらえないから、今日は思い切って訴えてみた。
「仕方ねぇな…。待ってな、今マキノ呼んでくるから」 「や!だだんとっいく!」
思えばダダンと外に出たことがない。病院とか子育て教室とかはいつもマキノさんが連れていってくれていた。ならば散歩くらいダダンと行きたい。
「あたしとかい?…でもねぇ…」 「や!だだん!」
我ながら見事な我が儘っぷりだ。でも甘えられるのは今だけだから、甘えたい。するとダダンは大きな溜め息を吐いてから立ち上がり、わたしの上着を持って来た。
「早く着な!今すぐ着ないと行かねぇよ!」 「あーい!」
やっぱりダダンは優しい。だから大好きだ。顔が怖くたって、ダダンはわたしの育ての親でもあるんだから。
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外は魅力が沢山だ。涼しいけど仄かに暖かい風に乗って春の匂いがした。歩けると言ってもよたよたとしか歩けないのでダダンと手を繋いでの散歩。
体格のいい目付きの悪い女性と赤ん坊、端から見たら異様な光景であることはすれ違う人達の顔を見ればわかる。ダダンはそれを気にしたのか、それともわたしに対しての遠慮なのかわたしと外に出たがらないのは知っていた。でもわたしは一切気にしていないし、ダダンはダダンなのだ。へらりと笑いかけると、伝わったのかは分からないがダダンは溜め息を吐いてからわたしの頭を撫でた。……撫でやすいのかな、わたしの頭。
暫くすると、公園が見えてきた。ぶらんこやシーソーなどの遊具が充実している比較的大きな公園らしい。前世では幼い頃から狙われるからと外出は制限されていたし、必ず誰かが側にいた。忍術を習い始めてナルトが産まれてからはそれも減ったが、こういう類いの子供らしい遊具はわたしにとって物珍しい。
「…遊んできな」 「いーの?」 「ガキが一丁前に遠慮するんじゃねぇよ」 「ん。ありがと、だだん」 「…はいはい」
とりあえずぶらんこを指すと、ダダンはわたしをぶらんこの椅子に乗せてくれて、支えながら押してくれた。身体が小さい分小さな揺れでもそれなりに迫力はある。でも楽しい。ダダンに笑いかけると、苦笑しながらも笑い返してくれた。
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わたしをベンチに座らせて、ダダンは飲み物を買いに行った。もうダダン大好き。足をブラブラとさせていると、コロコロとボールが転がってきた。
「……?」
辺りを見渡してみても他の子達はそれぞれで遊んでいてボールを探している子はいない。おかしいな、とベンチから降りてボールを拾う。どうすることもできないのでそれを持ってとりあえず砂遊びをしている子達に尋ねることにした。
「……おい」
突然掛けられた子供独特の高い声に驚いて振り返ると、赤い髪をした男の子がこちらを睨んでいた。少し年上だろうか。
「……おい、おまえ」 「なーに?」 「……それ」
彼はわたしの手元を指差した。あ、これこの子のボールか。
「ぼーる?」 「……ああ」 「はい、ぼーる」
彼にそれを渡すと、何とも言えない驚いたような顔をしていた。ていうか綺麗な赤い髪だなあ。地毛であのいろはすごいなあ。不思議に思っていると、彼は控えめに口を開いた。
「……おまえ、おれがこわくねぇのか?」 「?なんで、こわいの?」 「…みんなこわいっていうから」 「どーして?かみ、きれいなあかいろ。こわくないよ」 「……!おれのかみ、あかいし、めつきわるいから、みんなあくまだっていう。だからみんなちかよらない」 「あくまなの?わるいことしたの?」 「してねぇ!!」
突然彼は声を張り上げた。びっくりして身体がびくついてしまい、それに気づいた彼は泣きそうな顔になり伏せてしまった。ああ、そんな顔をさせたいわけじゃないのに。確かに他の子と比べたら鋭い目をしてるけど怖くはない。でも他の多感な子には怖いのだろう。無知であるほど残酷だ。
「……あそぼ」 「あァ?」 「あそぼ、ぼーる、あそぼ」 「…おまえな…」
ボールを奪って走るが、途端に足が縺れて顔面から地面と挨拶をした。恥ずかしいし痛い。
「お、おいだいじょうぶか!?」 「う、おぉ…、だいじょぶ…」 「だいじょうぶじゃねぇよ!ち、でてんじゃねぇか!こっちこいっ」
ぐいっと腕を引かれて水道まで連れていかれた。彼は手を水で濡らし控えめにわたしの頬を撫でる。
「いたかったらいえよ」 「う、うん…」
どうやら少し頬を擦りむいてしまったらしい。あちゃー。赤ん坊の柔肌が…前世では傷作ってばっかりで女の子らしいことできなかったから気をつけようと思ってたのに…秒殺か。
彼は自分の服の袖でわたしの頬を拭くと、ポケットからくしゃくしゃの絆創膏を取り出して貼ってくれた。
「これでだいじょうぶだ。いえにかえったらちゃんとしょうどくしてもらえ」 「うんっ、ありがとー、ぼーるのおにいちゃん!」 「ぼっ!?」
いやだって名前知らないし。だから思い付いたのをそのまま言っただけなんだけど、彼はガクッと肩を落とした。いやまあネーミングセンスがないのは認めるよ。
「ぼーるのおにいちゃんじゃねぇ。きっどだ。ゆーすたす・きっど」 「ゆー?」 「きっどでいい」 「きっど!わたしはね、なまえ!」 「なまえな。おまえきょうだれとここにきたんだ?」 「だだんだよ」 「じゃあさがしてるかもな。さっきのべんちにいこうぜ」 「あそばないの?」 「またこんど、あそんでやるよ。いつもいるから、そのときな」 「うんっ!」
彼、キッドと短い指で指切りを交わし、二人で笑い合った。何か本当に兄ができた気分。二人で手を繋いでベンチに戻るとダダンに叱られてしまったが、キッドがいたから心強かった。
流石に拳骨は泣いたけどね。
110309 キッドは夢主よりも少し年上
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