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始まりの花(仮).




「とりあえず逃げやしないからこれ、外して貰えるかい?」


痛くて敵わないよ、と肩を竦めて見せれば、渋々といった様子で源さんに緩めさせた。いやね、源さんは源さんとしか呼べないよね。すまないね、と声を掛ければ苦笑を返された。


「それで、お前はあいつとどういう関係だ?」
「関係…そうだねぇ、何と言ったら一番合うのか…」
「あぁ?」
「副長、連れてきました」


す、と襖が開かれ、斎藤が部屋に入る。斎藤は土方に頼まれ幹部達を呼んで来たのだ。ご苦労なこった。


「あれ、昼間の不審者さん」
「何だ、なまえじゃねぇか」
「………お前ら知り合いか?」


警戒心剥き出しで入って来た幹部の一部は、わたしを見るなり目を見開いたのが見えた。沖田と原田だ。二人は昼間の事を軽く説明した。


「何か千鶴ちゃんを探してるっぽいですよ」
「そういや言ってたな。千鶴の親戚か何かか?」
「まあそんな所だ。会わせてもらえんのかい?」
「…………」
「副長、」


こそこそと斎藤が土方に耳打ちをした。それを聞き終えると、土方は僅かばかり考える仕種をした後、ため息を吐いた。


「……斎藤、連れて来い」
「わかりました」


ぱたん、と襖が閉められる。ここまであっさりと進むとは、斎藤は一体何を言ったんだ。


「……いいか、馬鹿な真似起こすんじゃねえぞ。そん時はわかってるな」
「はは、わたしもそんな馬鹿じゃないさ。可愛いあの娘に何をすると言うのだ」


部屋を見渡すと、幹部達の殺気篭った視線とぶつかった。彼女は彼等に愛されている事がわかり、一人口元が緩んだ。言葉がないままに部屋で待っていると、斎藤の声が襖の向こうから聞こえた。開けられる襖、斎藤の後ろには、可愛い可愛い娘。


「え…」


彼女が部屋に入ってすぐ、目が合った。彼女は気付いただろうか、わたしを覚えているだろうか。何せ会うのは彼女と綱道が江戸に移り住んですぐ以来だ。幼かった彼女は覚えていないかもしれない。だがその心配も無用だったようで、嬉しいことに彼女はわたしの事を覚えていた。


「…なまえ…様…?」
「久しぶりだね、千鶴」
「…なまえ様ぁ…っ!!」


駆け出した千鶴はその勢いのままわたしに飛び付いた。おっと危ない。よく堪えたよわたしの腹筋。千鶴は軽いから押し倒されるまでではないけどね。ていうか可愛いなあ。


「なまえ様…会いたかった…!」
「おやおや、わたしもだよ。覚えていてくれたんだねぇ」
「勿論です!貴女を忘れたことなんてありません!!」
「おやおや」


嬉しい事を言ってくれるね。涙目でぎゅうっと抱き着く千鶴の頭を軽く撫でる。彼女は懐かしいのか、目を細めて笑った。わたしの血を継いでるのに何でこんなに可愛いんだ。


「………取り込み中悪いが、」


土方が申し訳なさ気に呟いた。周りの幹部達もぽかんとしている。千鶴もそれに気付いたのか、慌てて離れた。


「す、すみません!!」
「いや、構わないが…。お前ら、どういう関係だ?」
「え、えと…なまえ様は…」
「待て、千鶴」


千鶴を制して一つ分前に出る。そして姿勢を正して土方と近藤局長を見据えた。


「我が名は雪村なまえ。旅をしながら医師と薬売りを兼用しておる。千鶴とは遠からず近すぎずの血縁者だ」


土方が千鶴に真意を問うと、言わずもがなこくりと頷いた。


「雪村ということは…貴方も鬼なのですか?」


鬼という言葉に反応する。声がした方を向けば眼鏡の物腰が柔らかそうな男がこちらを見据えていた。山南と言ったか、そいつはにこりと口元だけで笑って見せた。千鶴が鬼だと知っているなら、話は早い。


「そうだ。千鶴はわたしの血を継いでおる」


意味深に聞こえる言葉を残して、わたしは微笑んだ。

101020

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