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始まりの花(仮).




何故こうなったのか、わたしが一番知りたい。わたしの可愛い可愛い娘(と呼んでいるが実際は何十代も離れている)が新選組に居るというので今晩にでも会いに行こう、と決意したのが今日の昼前。とりあえず暇なので薬草を採取しに林に入ったのが数刻前。薬草の採取に思った以上に夢中になっていたのか、気付いた時には既に日は沈んでいた。


(またやってしまったなぁ…。あれがいけなかったのだろうか…。後悔先に立たずとは言うがまさにその通りよ……)


目の前には恐らく浪士だっただろう屍を幾度も刺し、全身に血を浴びながら悦の表情を浮かべている男がいる。返り血に塗れたそれは浅葱色の隊服、新選組だ。彼らが何なのかは知っているが、余り関わりたいと思うものではない。だから既に人間の姿を留めていない浪士には悪いが、気付かれないようにと踵を返した。が、わたしは目の前を見て肩を落とす。


「た、助けてくれぇえ…!!!」


又もや浪士が浅葱色、つまり羅刹に追われているのが見えた。それは呆気なく頭を切り裂かれたのまではっきりと。更に奴はわたしに気付いたらしく、赤い瞳を爛々とぎらつかせながらニヤリと笑った。


(――嗚呼、可哀相に。彼等も望んだ運命じゃなかろうに、)


発狂しながら刀を振り上げた羅刹の胸元、心臓に居合いを突き刺す。わたしの愛刀が血に濡れる。もう心音は聞こえない。素早く引き抜き、同時に振り返り目前まで迫っていたもう一人の羅刹の胸元を切り裂く。小さな呻き声を漏らした後、彼等は崩れ動かなくなった。


(羅刹になった者は救われない。更にここまで自我を保てぬとなると、道は限られておる)


すまぬ、と静かに合掌すしてから愛刀に付着した血と脂を拭き、鞘に納めた。と同時に、首元に刃が宛行われた。人が居るのは気付いていたからさして驚きはしないが。


「……貴様、何者だ」
「それはこちらの台詞だ。何だ、こ奴等らを斬ったからその敵討ちかい?」
「……いや、こいつらは元々処分予定だ」


かちゃり、と刀が引かれわたしは振り返る。案の定、新選組斎藤一だった。面倒だなあ、と内心ぼやいていると、斎藤は気付いているのかいないのか、刀を鞘に納めた。まさかこんなにあっさりと退くとは思わなかったから、わたしは目を見開いた。


「……お前の処分は副長に任せる」
「副長?いいのかい、新選組を斬った者から刀を退いても?」「勘違いするな、あんたは自由になった訳じゃない。逃げたり反撃しようものなら、その時点で斬る」


あーはいはい。こんな展開、たぶん物語始まってすぐにあったなあ。千鶴と新選組の初顔合わせ的な。まさかわたしも同じような出会い方するとは思ってなかった。



*********



「……斎藤、こりゃどういうことだ」
「申し訳ありません副長。しかしあのまま見過ごすのもどうかと思い、連れてきました」


見事にきつく後ろ手で縛られたままわたしは新選組屯所に連行された。少し予定からズレたが当初の目的が新選組にいる千鶴に会うことだったので、都合が良いと言えばそうなる。が、解放してもらわなければ意味はない。


「お前、何であの場にいた」
「そうだな…。宿を探していたら偶然襲われたからだ」
「にしては随分腕が立つようじゃねえか。ただの浪士じゃねぇだろ?」
「わたしはしがない旅の薬売りさ。護身術で刀を習っていただけだよ」
「薬売りだあ?護身術程度でうちの隊士が斬れんのかよ」


いや斬れたしね。鬼の副長は厳しいねえ。これじゃわたしも目撃者として斬られるんじゃないか。わたしは死なないけど痛いものは痛い。それに面倒になってきたので話題を変える。


「そうだ、副長さん。わたし、人探しをしとるんだが」
「あぁ?」
「雪村千鶴はこちらにお世話になっとらんかね?」


ぴくり、と土方の眉が動いた。嗚呼早く会わせておくれ。

101017

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