clessidra(仮).
「伊作、留三郎は?」 「…彼女の所じゃないかな」 「そう…」
また彼女。仙蔵も文次郎も小平太も留三郎もあの長次でさえも彼女の所。伊作だけはわたしの側に居てくれる。彼女は、空から降ってきたらしい。らしい、というのはわたしはその場に居合わせなかったから、事実なのか分かりかねるからだ。だが一年生や仙蔵が見たと言っていたから事実なのだろう。だけどわたしは自分の目で見たものしか信じない主義だからか、受け入れることができなかった。
「なまえ……」 「大丈夫だ、伊作。もう慣れた」
彼女は美しく優しい。だから皆から好かれ、天女様と呼ばれているのだ。事務員として雇われた彼女は更に皆と仲良くなった。勿論同級生達も。彼らは忍の三禁を破っている。人を好きになるのは構わないが、色に溺れるのは忍としてどうなんだろう。それに彼女は異世界から来たと言っているらしい。俄には信じがたい。
「なまえはここにいなよ。夕飯を取ってくるから」 「いや、いい。腹は減っていないから。伊作は食べてきなよ」 「でも…」 「気にしないで行ってこい」
…すぐ戻ってくる、と言うと伊作は渋々部屋を出て行った。伊作には申し訳ないと思っている。彼は優しいから、わたしに気付いてくれた。わたしはどうしても彼女の、否彼女から香ってくる独特な甘ったるい香りが苦手だった。ねっとりと顔を、全身を嘗め回すかのような甘く気持ち悪い香り。最早嫌悪に近い。
「……来たか」
今日はやけに早いな。まだ西日は沈みかけている所だろうに。手入れ済みの忍具と脇差しを持ち、誰に知られることなく学園を後にした。
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始めはこんなん。わたしの中で日向夢主での天女傍観夢が固まってるからか少し書きにくい。 100911
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