ひなたぼっこ | ナノ


▽ ただいま!!

あの後、こちらに来てからは滅多に泣かなかったわたしは子供のように泣いた。その間も兵助くんはずっと背中を摩ってくれていて、誰かがわたしの頭を撫でていた。漸く冷静になったわたしは兵助くんに抱き着いていたことに気付き、急に恥ずかしくなって慌てて離れようとしたけど腕が離れる気配はない。


「へ、兵助くん、あの、」
「離さないよ」
「はい!?」


ぎゅうっと更に腕に力が入り、顔が熱くなった。思えば男性経験などないに等しく、兄二人がいてもそれは変わらない。どうしたらいいのかわからなくて助けを求めようとしたけど、周りに誰もいなかった(いつの間に!)。


「俺…ずっと待ってた。えりかさんがいなくなってからもずっと。一緒に行きたい所とか、言いたいこととか沢山あったのに、何もできないまま別れたから」
「……」
「なあ、えりかさん。俺気付いたんだ。逃げてるばかりじゃ、何もできずに目の前から消えてしまうってこと」
「兵助くん…」
「いなくならないで…」


目を真っ直ぐに見つめられて、顔から湯気が出そうなくらい熱かった。堪えられなくなって目を逸らすと、肩に置かれた手が震えていることに気が付いた。


「恐いの…?」
「え…?」
「わたしが、また居なくなることが」
「……恐い。だってまだ、覚えているんだ。えりかさんが腕の中から消えていく光景を、感触を。…また、居なくなってしまったら、」
「大丈夫」


泣きそうになった兵助くんを、今度はわたしが抱きしめた。恥ずかしいけど、言葉だけじゃ足りない気がして更に腕に力を込めた。


「わたし、この世界に生まれ変わったの。わたしの両親も兄弟もこっちにいる。わたしが帰る場所はちゃんとある」
「え…っ、じゃあ…」
「うん、消えないよ」
「……っ!」
「わわっ」


わたしの身体を包み込む腕は震えていたけど、たぶんさっきとは違う理由なのだろう。わたし、こんなに想われていいのかな。ちゃんと返せるかな。


「えりかさん、」
「ん?」
「これからも、側にいてくれ」
「…うん、いるよ。だから兵助くんも離れないでね」
「当たり前だ」


でも、心をじんわりと温めるこの気持ちは本物だということはわかる。わたしは本当、幸せ者だ。




**********




「ったく、いちゃいちゃしちゃってさー。それだけで腹いっぱいだっての」
「まあまあ。でもよかったじゃないか、兵助が気持ちを伝えられて」
「だよなぁ。男らしかったぜ兵助!」
「男前だよ兵助!太っ腹だし!」
「お前ら…もうその話はいいだろ!?」
「照れんなって。全く、あの時の男前兵助はどこへいったのやら…」
「三郎…っ!!」


町からの帰り道、わいわいと騒ぐ彼らを見て頬が緩んだ。聞いた話、わたしが前にいたことを覚えているのは五年生と滝夜叉丸くんだけらしく、周りは一様にわからないと否定したらしい。前のわたしはやはり消えていたのだ。彼らだけ覚えていたのは最後に立ち会ったからだろうか。それにわたしが消えてから一月しか経っていないと聞いた時、わたしは耳を疑った。だって17年間こっちで生きてきたのに、一月しか換算されていないのはなぜだろうか。時間軸がおかしいが、考えても仕方ないので保留にする。


「えりかさん」
「ん?」
「その着物、似合ってる」
「ほ、本当?」
「ああ。平からの紅も映えていて凄く綺麗だ」
「…うひーっ」
「えりかさん?」
「照れてるんだよ、兵助」


この天然タラシめ!まったく、さらりと恥ずかしいことを言うものだから心臓が幾つあっても足りない。夕陽に染められたみんなが輝いて見えるとか、隣を歩く兵助くんの横顔が綺麗だとか、表現したくてもできない物が多くて困るのに、ストレートに言葉にできて狡い。そう言うと彼はそうでもないよ、と苦笑してわたしの手と絡ませた。


「だってどれくらい俺がえりかさんを想っているのかを表現したいのに、表現の仕方が見付からないんだ」
「え…」
「まだ足りない。ね、俺は気持ちを伝えきれてないよ」


何か墓穴掘ったかもしれない、恥ずかしい。でもわたしもこの気持ちを伝えきれていないからお互い様か。


「これから、ゆっくり伝え合って行こうね。わたしも言いたいこととかいっぱいあるんだよ」
「ああ、そうだな」
「………お二人さん、甘い雰囲気になってるとこ悪いが、私達もいることを忘れないでくれ」


こっちが恥ずかしい、とムスッとした三郎に睨まれた。いや、申し訳ないわたしも恥ずかしかった。そんなこんなで騒ぎながら歩いていると、あっという間に目の前には忍術学園の門。


「えりかさん」
「ん?」


五人が並んで笑顔で手を差し出した。


「お帰りなさい!!」


ああ、本当に帰ってきたんだ。わたしの居場所はここなんだ、ここでいいんだ。わたしの精一杯の笑顔を見せて手を掴んだ。


ただいま!!

101029

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