ひなたぼっこ | ナノ


▽ その腕は優しくて

朝早く食堂のおばちゃんに負けまいと早起きしたけど既におばちゃんはトントンと大根を切っていた。何これデジャヴュ。明日こそは、と密かに決意しながらおばちゃんに指示された通りおかずを作っていると、山田先生が裏口から現れた。ちなみに先生方とは上級生の担任以外挨拶は済ませてある。


「もう食堂にいたのか。精が出るな」
「い、いえ…。それより先生はどうなさったんですか?」
「ああ、朝の学園集会があってな。君を探していたんだ」
「え」
「学園長の突然の思い付きだ。上級生も帰ってきたことだし。君の紹介も兼ねているそうだよ」
「突然の思い付き…」
「すまないね。私達も先程聞かされたんだ」


何これデジャヴュ!!でも前は小平太くんに担がれたなあ、と懐かしく思いながら山田先生に着いて行った。



**********



「ではえりか、上がってきなさい」


えええええ!?わたし今来たばっかりなんだけど!?余り顔を見る勇気がなかったから山田先生の陰に隠れながら行ったら、早速指名された。前と変わらないな、このくだり。緊張しながら檀に上がり、学園長に挨拶しなさい、と促された。前を見ると昔と重なった。


「はじめまして、渡邉えりかと申します。事務員兼食堂のお手伝いとしてここに置かせていただくことになりました。普段は食堂にいると思うので、気軽に話し掛けてくださいね!これからよろしくお願いします!」


自己紹介すると下級生からは温かい拍手が送られて、ホッとした。「えりかさーん」なんて手を振ってくれる一年生もいたし、上級生も少し疑いながらも警戒はしていないみたいで安心した。ちらりと視界に兵助くんが入り、別れる前を思い出してどきりとした。抱き着かれる、というより抱きしめられたあれは今思うと恥ずかしい。彼、というより五年生は口を開けぽかんとしている。小首を傾げるが学園長の解散、という声に意識を取り戻した。


「(あ、朝食作んなきゃ)」


中途半端に出てきてしまったのを思い出し、慌てて戻ろうとした時、わたしよりも慌てた声がわたしを引き止めた。


「えりかさんっ!!」


振り向けば、五年生と滝夜叉丸くんが真剣な表情でわたしを見ていた。何だろう、こっちに来てからは初対面な筈なのに。


「どうしたの?」
「えりかさん…ですよね」
「そうだよ?」
「僕達のこと、覚えていませんか…?」


どくり

心音が耳元で聞こえたかのような錯覚に陥った。覚えていませんか、って、わたしのことがわかるの?前のわたしを覚えているの?


「わ、たしのこと、」
「わかるよ!」


ずいっと前に出てきた兵助くんが叫んだ。


「異世界から来て、俺が山賊から助けて連れてきたんだ。それで忍術学園で事務員になって、ドクタケに攫われたり、月見したり…」
「…っ」
「俺達はえりかさんを忘れたりしないっ!」


わたし、確かに此処にいたんだ。彼らはわたしを見てくれていて居場所をくれた。生まれ変わって17年間生きてきたけど、彼らの中にわたしは確かに存在していたのだ。涙が溢れていた。


「へい、すけ、く、」
「……ああ」
「さぶろ、」
「…はい」
「らいぞ、くん」
「…は、いっ」
「はちく、ん」
「はいっ」
「かん、えも、くん」
「はい」
「たき、やしゃまるく、」
「………っはい」


わたしもみんなのことを覚えている。わたしが名前を呼ぶと、ちゃんと返事を返してくれた。嬉しくて思わず兵助くんに抱き着いた。



その腕は優しくて
(17年前を思い出した)


101027

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