ひなたぼっこ | ナノ


▽ 十と七の年月

「忘れ物ない?」
「ないよ、大丈夫」


あれから、転生して17年の月日が経った。こちらでもわたしの名前はえりかで、両親は違ったけれど幸せな生活をしてきた。勿論平和という平和ではなかった。前にいた村を焼かれたこともあった。武家の長女として生まれ、兄二人は家を出て城に仕えている。どちらかと言えば放任主義である両親は、わたしが働きたいと言うと快く働き口を探してくれた。ご近所の竜王丸さんの友人が経営(?)している所での食堂のお手伝いと事務員。何かとんとん拍子にいい具合に進んでいる気がするけど、これが本来のわたしの人生なら抗う理由もない。


「場所はわかるの?」
「大丈夫だって。竜王丸さんから貰った地図もあるし」
「……気をつけてね」
「はーい」


今日はその就職先に初出勤するのだ。半日あれば着くそうなので、早い内に家を出る。


「行ってきます」
「いってらっしゃい」


父上と母上に挨拶をしてから背を向けた。精神年齢を考えたらそう歳が変わらないのが不思議な感じ。



*********



町で寄り道もせずに真っすぐ歩いたおかげか、予定よりも早く着いた。日を見る限り夕方になる手前らしい。いざ目的地であった忍術学園の門の前に立つと、妙に緊張した。こちらの世界に生まれ変わってから初めてだからこちらの人達が覚えているわけじゃないし、ましてやあの時のメンバーかも定かじゃない。僅かな期待と大きな不安が胸を占める。でもこのまま立ちっぱなしだと怪しいので、勇気を振り絞って門を叩いた。間を置いて伸びた声が聞こえた。あれ、もしかしてこれって


「こんにちはー。どちら様ですかー?」


小松田さん。見た目も、最後に見た17年前と変わらない。もしかしたら、という希望と期待が膨らんだ。


「学園長先生に用があって参りました」
「わかりましたー。それでは入門票にサインをお願いします」


やっぱり覚えているわけはない。わたしは17年間過ごしてきたけど、彼らには関わってこなかった時間。きっとわたしが消えた時、同じ様にこちらでもわたしはいなかったことになったに違いない。ここにいる彼らはわたしが以前関わった人達とは違うのだ。


「渡邉えりかさんですね。……あれ?前にどこかでお会いしましたか?」


どきりと心臓が跳ねた。でもわたしがわかるはずがない、と首を振った。


「いいえ。人違いじゃないですか?」
「そうですよねー。失礼しました。では庵までご案内しますね」
「お願いします」


相変わらずだなあ、小松田くん。まあそれに助けられたのかも知れないけど。



**********



学園長先生には竜王丸さんが既に話を通していたからか、仕事内容を言い渡されただけですんなりと終わった。割り当てられた部屋は前のように六年長屋ではなかったけど、ちゃんと職員用の長屋だった。と言っても内装はそう変わらないので妙に懐かしい。


「ああー、帰ってきたって感じ?」


とりあえず荷物を置いて食堂に向かうことにした。食堂のおばちゃんに挨拶をしに行かなくては。17年とは大きいもので、わたし自身はとても懐かしく感じるのに目の前にある学園は何ら変わりなくそこにある。


「変わんないなあ。当たり前か」


食堂に入ると、早速おばちゃんに声をかけた。時間的に夕飯の準備をしているのだろう。幸い生徒はまだ委員会なのか一人も会わなかった。


「こんにちは」
「あら、貴女がえりかちゃん?学園長先生から話は聞いているわ。長旅ご苦労様」
「ありがとうございます。これからお世話になります」
「いいのよう!そんな固くならないで!今日はゆっくり休んで、明日からがんばりましょう」
「はいっ。ではお言葉に甘えて」


失礼します、と食堂を出てそそくさとこれからお世話になる自室に戻った。まだみんなに会う心の準備はできていない。ふう、とため息を吐いてから荷物を押し入れに片付けると、襖に影ができ声を掛けられた。


十と七の年月


(私は教師の土井半助です)
(渡邉えりかです。よろしくお願いします)
(よろしくお願いします。……あの、失礼ですが、前にどこかでお会いしましたか?)
(!)


101018

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