ひなたぼっこ | ナノ


▽ ありがとう

身体が怠い。重い瞼を開くと、いつも通り白い天井が視界に入った。今日何曜日だっけ、と身体を起こしてカーテンを開ける。時計を見ると、8時10分過ぎ。え、


「ええええ遅刻するううう!!!!」


何で起こさなかったの!という罵声を発しても家族全員寝坊だったために余り非難していられなかった。ふと、制服に着替えることに違和感を感じた。何だろう、いつもと違うみたい。まあいっか、とスカートを整え、鞄を掴み家を飛び出た。



*********



学校に着いたのはチャイムが鳴るギリギリだった。全力疾走だった為に息があがっている。


「おはよー。珍しくギリギリだったね。寝坊?」
「そー。家族全員でさー」
「ドンマイ。あれ?その紐買ったの?」
「え?」


彼女が指差す先を見てみると、手首に綺麗な紐が結ばれていた。こんなん持ってたっけ。そもそもいつ結んだんだ。綺麗だからいいけど。チャイムが鳴って先生が入ってきて、慌てて席に着いた。。いつも通り。疲れたからか、わたしはそのあと眠ってしまった。



**********



学校から帰ってくると、既に日課になっているワンセグの用意をする。電波の入る所で予約をして、夕方6時10分になるとテレビの前を占領する。今日の忍たま何だっけ。


「姉ちゃん、忍たま始まるぞ」
「はいよー」


自室から出てチャンネルを回すとOPが始まる。今日は食堂のおばちゃんがドクタケに誘拐される話らしい。ドクたまかわいいなあ。


「(あれ?)」


なんか、また違和感。何だろう、この光景どっかで見たことあるかもしれない。デジャヴュ?いやでもこれまだ放送一回目だったはずだし。どこで?いつ?どうして?ぐるぐると思考を巡らせていたら、いつの間にかアニメは終わっていた。しっくりこないもやもやとしたものだけが残っていた。



********



「うーん…」


さっきからこの調子だ。この腕の紐といい、朝からの違和感といい、さっきのアニメといい…。違和感があるこの生活に違和感を覚えた。どうしたんだろう。昨日と同じ生活な筈なのに。昨日はアニメに仙ちゃんとか留とかのアップが出て、すっごい幸せなまま寝て、寝て?あれ?木、森、制服、ローファー、男、苦無、兵助くん…兵助くん…?いつも久々知って呼んでて…あれ?

視界が回った。

ここどこ。真っ暗。わたしいつの間に寝てたんだろう、夢見る程なんて。ていうか夢だって理解してるわたし意味わかんない。


「えりか」
「っ!?」


ぼうっと何もない所から現れたのは、わたしだった。藍色の着物を着たわたしだ。何それ、コス?


「貴女を探してた」
「…誰?」
「わたしは貴女であって、貴女じゃないわたし」
「……???」


言ってる意味がわからない。つまり何なの?


「貴女は本来こちらで生まれる筈だった。なのに何故かこちらではなくそちらで生まれてしまった。だから一度こちらに来させたんだけど…覚えてない?」
「な、何を…?」
「覚えてないんだね…」


彼女が手を翳すと、目の前の光景が変わった。落乱のキャラと遊んだり、料理を作ったり、ドクたまと料理を作ったりしている。これはわたし?全部見たことある光景で、あれ?五年生と滝夜叉丸くんが泣いてる。泣かないで、何で泣いてるの、兵助くん、兵助くん?あ、れ、


「わ、たし…?」
「思い出した?」
「うん…うん…」


かちり、と何かが嵌まった気がした。今まで感じていた違和感。それはあちらでの生活がわたしに合っていたから。今のわたしはこちらのイレギュラーだったから。どうして忘れていたんだろう、短い間だったけどこんなにも大切だったはずなのに。


「……えりか、貴女は少し特殊なの。あちらからこちらに渡る時、記憶が飛んでしまった。でも何故かその逆は覚えてるんだよね」
「……わたし…」
「わたしはこちらで言う“落乱の世界”で生まれる筈だったえりか。貴女が辿るはずだった貴女の人生かな」
「わたしの、」
「そう。貴女はあちらで過ごした方がいいんだけど…。どっちがいい?」


混乱してる筈なのにやけに冷静だ。理解している自分に驚いたけど、今はそれどころじゃない。


「わたしは本来“落乱の世界”の人間なんだよね」
「そうだよ」
「でも、もしそっちに行ったら、今まで暮らしてきたこっちはどうなるの?」
「それは…」


目の前の“わたし”は言い淀んだ。そして少し考える素振りを見せ、意を決したようにこちらを見据えた。


「貴女が生きてきた時間、記憶、存在が消える。そうすればこの世界には二度と戻ってこれない」
「…っ」


二度と戻ってこれない。この17年間過ごしてきた家族は、わたしを忘れてしまう。友達も、クラスメートも、幼馴染みも。それを想像したら急に恐くなった。


「……貴女はあの世界で望まれているの。望んでくれる人がいるから、この世界に違和感を覚えたんだよ」


望んでくれる人。


「……わたし、そちらの世界に行く」
「…本当にいいの?もう二度と戻ることはできないんだよ」
「……いい、わけじゃないけど、わたしが本来生きるべき人生を生きたい」


我が儘だとわかってる。産んで育ててくれた両親に何もしないで離れるなんて、とんだ親不孝者。ごめんなさい、ありがとうございました。


「…わかった。貴女が選んだ道、しっかり歩んでね」
「……うん」
「あちらの世界で生まれ変わって、新しいえりかとして生きるの。でも前世の、こちらの記憶は消せない。それでも本当にいいの?」
「……うん。いいよ。わたしもこっちで過ごした時間を忘れたくない」
「さすがわたしだね。そう言うと思った!」


にこっと笑い、腰に手を当てるのはわたしと同じ。わたしも笑ってしまった。


「時代は行ってからのお楽しみ。さあ、貴女が生まれるのを待ってる。いってらっしゃい」


両手を握られ、ぱちりと静電気のようなものが走ったかと思いきや、目の前にはスエット姿のわたしが。自分の服装を見ると藍色の小袖。事務員の小袖だ。とん、と軽く押されて傾く身体。そのまま真っ逆さまに落ちていく。何とか見えた“わたし”は笑顔で手を振っていた。



ありがとう


……おぎゃーおぎゃー

ああ、逢いたかったわ!
頑張ったね
本当!はじめまして、私達のえりか



101003
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すみませんわけわかんない上に長いです。まだ続きます。

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