ひなたぼっこ | ナノ


▽ 太陽は真上に

布を張ると、ぱんっといういい音が響いた。天気は快晴。わたしの心は曇り空、ってか。洗濯物を干し終えぐっと背伸びをすると、背中にどーんと衝撃が襲った。


「どーん」
「ぐえっ」
「喜八郎ぉぉお!!!」
「えりかさん大丈夫ですかー?」


受け止められなかった身体は重力に従い前に倒れた。それと同時に何とも情けない蛙が潰れたような声が喉から漏れた。


「大丈夫…生きてる…」
「あああえりかさんが瀕死の状態だ!喜八郎!!」
「僕も生きてまーす」
「見りゃわかるわ!!早くえりかさんの上から退けろ!」
「えー」
「えーじゃない!」
「二人とも、そろそろ本気で危ないみたいだよー」


とりあえずなんとか助かって彼らを見ると、アイドル学年が勢揃いしていた。


「ふぅ…生き返った…。そういえば用件はなんだい?」
「あ、そうでした。えりかさん、今晩お月見をするそうですね」
「え、うん。何で知ってるの?」
「食堂で聞きました。というか聞こえました」


まあ、あれだけ騒いでればね。ていうかそれがこの子達に関係あったのだろうか。続きを待っていると、一人はにこにことしていて、二人はそわそわというか言いにくそうにしている。残りの一人は突然口を開いた。


「僕達も行きまーす」
「え」
「ちなみに立花先輩にこのことを話したら“面白そうだ”って呟いてたので、たぶん六年生も来ると思いまーす」
「え、えええ」


いきなり規模が大きくなってしまった。上級生大集合とか大掛かりな。でも喜八郎くんが「嫌でしたか?」と首を傾げるもんだから思わず「嫌じゃない!!」と即答してしまったわけだが。


「すみませんえりかさん…」
「ん?ううん。大勢の方が楽しいし、賑やかになるじゃん!」
「まあ五年生だけ独り占めするのも見逃せないし」
「え?」
「いえいえ何でもありませんよ!!」
「そう?」


喜八郎くんがぼそりと何かを言ったみたいだけど、小さすぎて聞こえなかった。ていうか何で三木ヱ門くんが慌てるんだろう。


「それでは失礼しますね」
「うん。授業がんばって!」
「はいっ!ほら、喜八郎行くぞ」
「えー」


まだぼやいている喜八郎くんを引っ張って四年生は戻って行った。なんだ、今夜のお月見は随分賑やかになるみたいだ。寂しくなくて嬉しい、かも。



**********



「お月見大会?」


聞き慣れない言葉を聞き思わず鸚鵡返しにすると、言った本人も困ったように眉を下げて笑った。突然の思い付きは毎度のことであるが。


「そうなんですよー。最初は五年生が企画してたみたいなんですが、学園長先生がどこからか聞き付けて“今日は学園でお月見じゃあ!”って」
「(自分が甘味を食べたかっただけじゃないのかな…)」


たぶん、いや絶対そうだと思う。あの人ならやりかねないし。でも今は逆に感謝する。わたしにとって大きなイベントがあってから消えるなんて、本当にどこかの悲劇のヒロインみたい。わたしはヒロインなんて柄じゃないから当てはまらないけど、こういう時くらいは楽しんでも、自惚れてもいいよね?一瞬だけ薄くなった手に気づかない振りをしてわたしは最後の掃き掃除に励んだ。


太陽は真上に

101001

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -