ひなたぼっこ | ナノ


▽ 作法委員会

「やっぱり桃色ですよ」
「いや水色だな。子供っぽいがこの模様が落ち着いているからきっと似合う」
「橙色も似合うと思いますが」
「だったらこっちの模様じゃないですか?」
「………」
「………」


目の前で繰り広げられる口論を藤内くんと一緒に眺める。どうしてこうなったのかというと、ほんの数分前に遡る。



**********



「えりかさん」
「喜八郎くん、どうしたの?」


夕飯の準備前の自由時間、わたしはすることもないのでまた図書室に行って本を読もうと思っていた。そこに現れたのは、アイドル学年の綾部喜八郎くん(今日も可愛いねっ)。彼はわたしの手を掴むと何も言わずに歩きだした。当然わたしは引っ張られる状態になる。


「き、喜八郎くん…!?」
「えりかさんは桃色ですよね」
「…は?」
「委員長ー、連れてきましたー」


あれ、いつの間に。そこは作法委員会真っ最中(たぶん)の仙ちゃんや下級生達がいた。なぜ呼んだし。


「ふむ…やはり水色だな」
「えー、桃色ですって」
「えりかはどう思う?」
「え!?な、何のこと言ってるのかさっぱりなんだけど…」
「なんだ、喜八郎から何も聞いていないのか?」
「うん」


まったく、と頭を押さえた仙ちゃんを見て、喜八郎くんは悪びれた様子もなくすみませーんと呟いた。


「着付けの話が出てな。えりかに着せるなら何色か、という話題になったんだ」
「……じゃあ何で直接わたしを連れてきたの」
「喜八郎がいきなり飛び出して行ったんだ…」
「喜八郎くん…」
「まあいい」


いやよくねぇよ、というツッコミは心の中に閉じ込めておく。すると仙ちゃんはどこからか水色の綺麗な着物を取り出した。


「着てみろ」
「は?」
「待ってくださいよ先輩。だったらこっちを着てください」
「え、」
「この色も似合いますよー」
「ほ、」


そして冒頭に戻る。今ではわたしそっちのけで討論が交わされている。


「…藤内くんはいいの?交ざんなくて」
「……俺に死ねと?」
「いや何もそこまでは」
「あの中に入って生きて帰って来られる自信はありません」
「………苦労してるね」
「………はい」


S委員会は今日も平和です。もう帰っていいかなあ。



**********



「んんん?」


風呂からあがり寝ようと布団を敷くときに気付いた。布団を入れていた棚にはこちらに来たときに持っていた現代の持ち物も仕舞っていた。制服とローファーと鞄。その内の鞄が、ない。


「あれ…昨日出したっけ…?」


出してない。というか棚から出すことは滅多にないから、なくすわけがないのに。考えていると、視界に違和感を感じた。ローファーだ。目を凝らすが暗くてよく見えない。明かりを近づけてみて、わたしはあまりの驚きに声を失った。ローファーが透明になっている。


「な、何で…!?」


するすると消えていくそれが恐ろしくて、でも掴むために手を伸ばしてみる。しかしそれはローファーの革を掴むことなく木材に触れた。ローファーはわたしを無視してどんどん消えていき、遂にその姿を消した。なくなった。


「な、ど、消え…っ、!!」


空を切った手が、透けている。慌てて明かりを持つ方も見るがこちらも透けて床が見えた。


「いや…っ!!」


恐くなり明かりを放り投げ座り込む。ガシャンと投げ出されたそれが音を立ててから消えた。途端に周りは暗くなる。身体の震えが止まらず、消えかかっている手首をきつく握る。すると外からバタバタという音が聞こえてから勢いよく戸が開けられた。忍者の卵じゃないのか、とかいうツッコミができるところ変な所で冷静らしい。入って来たのは六年生だった。


「どうした!?」
「曲者か!?」
「えりかさん大丈夫!?怪我してない!?」


声をかけてくれてさっきよりは安心できた。隠すように手を見ると、透けていないわたしの手がちゃんとあった。さっきのは夢だったの?


「えりかさん?」
「あ、ご、ごめんねみんな!虫が出てきて驚いただけなの!」
「虫…?」
「夜中に大きな音出してごめん!」
「何ともないならいいが…」
「あれ、えりかさん手、どうしたの?」
「え、」
「手首、赤くなってるよ」
「だ、大丈夫大丈夫!わたしは何ともないから、もう寝よう!」
「でも…」
「大丈夫だから!!!」
「!!」


はっとした。つい大きな声を出してしまった。案の定みんな驚いた顔をしている。もう一度ごめん、と疲れているからという理由でみんなを追い出した。心配して来てくれたのに、なんて酷い女。でもわたし自身まだ気持ちの整理ができていなかった。


薄れていく

100905

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