ひなたぼっこ | ナノ


▽ お花畑はここ

「じゃあ次はお昼、お願いね」
「はーい。お疲れ様でしたー」


朝食も終わり、一通り片付けたので次の作業に移る。洗濯。言わずもがな手洗いなわけだが最近なんとか慣れてきた。今日も汚れた忍装束や手ぬぐいを洗っていく。


「あぎゃっ」


……可愛くない悲鳴をあげてしまったが、周りに人がいなくてよかった。どうやら指の皹のように裂けてしまったらしい。あれ、今乾燥してないのにな。まあいいかと洗濯を再開するが、水が凍みるように痛い。後で絆創膏貼ろう。


「うひー。やっと洗い終わった…後は干さねば…」
「えりかさん、」


名前を呼ばれ振り向けばそこにいたのは桃色の忍装束に身を包んだ、つまりくのたまの子が数人。確か前にユキちゃん達が、くのたま上級生は四年生から上は本当にくの一になりたい人しか残らないから少ないって言ってた気がする。でも、今まで食堂に来てても碌な会話はしなかった。わたしも嫌われてるとわかったから話し掛けはしなかったし、何か彼女達の気に障るようなことをしただろうか。


「……何、かな」
「私達は、貴女が学園に来たとき、直ぐに消そうと思いました」


息が止まった。彼女から放たれた言葉を理解するのに時間がかかった。でも、何となくわかっていたからそこまで衝撃は受けなかった。


「でも忍たま達が近くにいるし、何より学園長の視野下なら迂闊に手は出せませんでした」
「私達で話し合った結果、貴女を監察してくの一だと判明したら事故に見せかけて毒を盛ろうとしました」
「でもくの一だという証拠はいくら探しても見当たらない。寧ろ貴女の努力が本物だってことがわかりました」
「だから、話し合ったんです」

「貴女は忍術学園に害はない」


ぐるぐると混乱する。話の展開が早すぎてわたしの頭ではさっきよりも理解できない。つまり?


「わたしを、信じて、くれるの…?」
「はい」
「今まですみませんでした」
「あ…っ、謝らないで!怪しいのは本当だし…。でも、認めてくれてありがとう」


そう言えば彼女達から笑顔が零れた。よかった、彼女達は笑っていた方が可愛い。空気が解けた頃、一人のくのたまが走り寄り、洗濯物をカゴから取り出し干しはじめた。


「私、くのたま六年の小梅と言います。いつも一人で大変ですよね。手伝います」
「うぇっ!?」
「私も手伝います!」
「私も!」


呆けている内に洗濯物はどんどん干されている。全部任せるわけにはいかないので慌ててわたしも入ると、隣にいた小梅ちゃんが微笑みながら小声で声をかけてきた。


「今まで何も手伝えずにすみません。本当は結構前に話は纏まってたんですが、中々話し掛けられなくて…」


はにかみながら言う彼女はくのたまだけど歳相応ね幼い笑顔だった。見た所、彼女は他のくのたまを纏めるリーダー的存在なのだろう。


「いいんだよ。気持ちがわかってすごく嬉しい。ありがとう」
「…えへへっ」


かっわいいなあ!!!!頭を撫でてあげると、それに気付いた他の子が狡い!と声をあげた。何だここ。楽園かお花畑か幸せすぎる。


「そういえば、ユキ達から聞いたんですが…」
「うん?」

雷乱ってどう思います?
「ぶっ!!な、なななな何言って…!」


ま、まさかこの展開は…!唐突な質問はお姉さんにはちょいと刺激が強すぎるよ!


「いえ、私達と同じだと聞いたので…、嫌いでした…?」
「ううん、寧ろ好き
「よかった!みんなマイナーだって言うんですよ?」
「春奈は乱太郎受けが好きだからでしょ。えりかさん、次富は?」
「いいねー。でもわたし的にあそこは次富左の親子が好きかなあ」
「えりかさん…っ!深いですね!!」
「ちなみにあの…リアル百合って…どう思いますか…?」
「百合?偏見はないよ。好きになったのが同性だったってことだし、本人達が幸せなら口だす権利はないでしょ?」


そう言えば彼女達はぽかんとし、急にじわじわと泣き出した。え、何!?


「お…お姉様ぁ…!!」
「お姉様!?」
「まさか…男色の話だけじゃなく百合まで理解があるなんて…!」
「お姉様と呼ばせてください…」
「姉上…!!」
「神…!!」


……なんかわからないけど懐かれたようだ。



**********



彼女達はあのあとシナ先生に呼ばれわたしと別れた。名前と学年と好きCPをバッチリ聞いた。また語りに来るそうだ。ていうかくのたまは腐女子か百合ってどういうことだ。本気で花畑が見えた。彼女達と別れてからは自室に戻ってきて絆創膏を探している。


「んー…。あ、あった」


漸く見つけた一枚を貼る。


「ていうか、こんなに荷物少なかったかな…。あれ、電卓がない…?」


鞄の中は勿論、机付近も探したが見当たらない。最近出した覚えはないし、どこに行ったんだ。


「……ま、いっか」


持ち前の面倒なことは考えないという特技が発揮され、わたしは考えることを止めた。そろそろ昼食の準備だし、と片付け襖を閉めた。



お花畑はここ


この時既に始まっていただなんて、誰が気付くだろうか。鞄の中のノートが静かに姿を消した。


100829

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -