ひなたぼっこ | ナノ


▽ 夜空に浮かぶ

「しまったああぁ…」


わたしは静かに叫んだ。というのも、今は夜中であり外だからだ。夕飯の片付けも終わり、残飯(といっても少しだけ余ったものだが。しかもおいしい)を頂きくのたま達も入り終えただろう時間を見計らって風呂に向かう途中だった。


「あああやっぱり…。洗濯物入れ忘れるなんてとんだ馬鹿だ…」


洗濯物を干しっぱなしだったということに気付いたのだ。冷たくはなっているが、最近暖かいということもあり、着れない程ではない。よかった、とカゴに洗濯物を詰めてそれを持ち、ある場所に向かった。各長屋の合流地点のような場所に棚があり、そこに学年毎に衣類やらを置いていく。誰も来ないだろうからその場に座って、手早くたたみ棚に放り込む(一年生ごめんね…)。漸くたたみ終えカゴを元に戻してから風呂場に向かう。ふとグランドが目に入った。何かがキラリと光る。


「(何だろう…)」


そろりと近づいて目を凝らすと、そこには戦輪を的に向かって投げている滝夜叉丸くんがいた。こんな時間まで練習基特訓をしていたのか。自分を天才だと称して自惚れだとか言われるが、元より真面目なのだろう彼は毎日努力しているのだろう。的がここから見てもわかるくらい使い込まれてボロボロだ。そっとしておこう、と踵を返そうとした時、わたしはやってしまった。


カッターン


洗面道具や着替えを、あろうことか手を滑らせ落としてしまった。音がなくなったかのように静まり返る。ギギギ、とまるで錆びたロボットのように首をなんとか回し滝夜叉丸くんの方を見る。目が合った。


「……えりかさん…っ?」


ああ万死に値する。


**********


「お恥ずかしい所をお見せしました…」
「な、何言ってんの!?覗き見してたわたしが悪いんだし…、第一かっこよかったよ!」
「いえそんなことは…」


褒めた筈なのに滝夜叉丸くんは妙に恐縮してしまって、たぶん恥ずかしさが上回っているのだろう。いつもの自惚れは発揮されなかった。きっと、地道な努力を他人に見られたくないタイプだ。逆に申し訳ない。


「かっこよかったのは本当だよ。滝夜叉丸くんは頑張ってるんだね」
「いや、あの」
「大丈夫、誰にも言わないから」
「…え、」


滝夜叉丸くんはぱちりと目を見開いてこちらを見た。美人なだけに驚いた顔も絵になる。…いやそうじゃなくって。

「誰にでも秘密にしたいことはあるしね。ましてやこつこつとやっていたこと、広めるなんてできないよ」
「……」
「わたしにだって、秘密の一つや二つあるもん。安心しなさい、これでもお姉さんは口が堅いぞ!」
「…ふふっ、はい」


ふわりと笑った滝夜叉丸くんに軽く眩暈がした。美人って目に毒(ふふって何)。的を片付けた滝夜叉丸くんを見てから、わたしも風呂に向かう途中だったのを思い出し歩きだす。隣を歩く彼の頭をぽんと叩くとキョトンとした目で見られた。何してんだわたし。


「ま、程々にね。時間もちゃんと考えなきゃ。寝れる時に寝とかないと、どこかの会計委員長みたいになるよ?」
「ふふっ、気をつけます。まあ私のこの美しい美貌に隈等というものは似合いませんしね!」


いつも通りに戻った彼に安心して密かにため息をつく。うんうん、こっちの方がわたしは好き。


「よしよし。滝夜叉丸くんは綺麗だしかっこいいよ。さあ早く湯浴みして明日に備えなさいな。聞いた所野外実習なんでしょ?」
「……子供扱いしないでください」
「おやまあ、わたしから見たらまだまだ子供だよ。わたしも十分子供だけどね」


またぽんぽんと頭を叩く。滝夜叉丸くんは顔を背けてしまったけど、赤くなった耳が見えたから照れ隠しだとわかった。褒められるのは慣れないらしい(かわいいなあ)。


「……えりかさんはいつもこの時間に湯浴みをしてるんですか」
「んや?いつもはもう少し早いんだけど、今日は洗濯物を取り込み忘れ…あ、」
「……聞きましたよ、えりかさん」
「あああ言わないでね!!」
「どうでしょう?」
「酷い!!!」


彼はまた綺麗に笑った。くそう、その綺麗なパーツはどうしたらできるんだい。女のわたしより綺麗だなんて狡い。


「えりかさんって、母上みたいですね」
「……それは老けてるって言いたいのかな?喧嘩売ってる?んん?」
「ち、違いますよ!!そういう意味じゃなくて、何と言いますか…。母上のような姉上のような、不思議な温かさがあります」
「……ありが、と?」
「疑問形ですか」
「だって喜んでいいのか…」
「喜んでくださいよ。つまり、その…。私は…姉上のようで、すきで、す…」
「!!!」


何この子!!!!抱き着きたい衝動をなんとか抑え顔を見ると真っ赤だ。たぶん言うつもりはなかったんだろうけど、話の内容から流れで言ってしまったんだと思った。わたしが姉みたいとか、かわいいこと言うじゃないか。


「もう…かっわいいなあ!!」
「わわっ」
「わたしも、真面目で素直な弟は好きだよ」
「、っ」


がしがしと頭を撫でてやる。わたし頭撫でるの好きだな。元いた世界の弟を思い出して、こんな時期もあったな、と密かに笑った。


「…えりかさん、」
「ん?」
「えりかさんも仕事が大変なのはわかりますが、あまり無理なさらないでくださいね」
「うん?」
「……弟は心配なんです」
「、!……ありがとう」


おやすみなさい、と言って滝夜叉丸くんは逃げるように早足で去って行った。いい弟ができたな、と緩む口元を押さえながら、温くなっているだろう風呂に向かった。


夜空に浮かぶ
(星だけが知る会話)


100828

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -